スタジオジブリの最新作、宮崎駿監督最新作の映画『風立ちぬ(公式サイト)』を公開初日に観てきたので感想です。
 ネタバレ注意です。
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 射程が想定していたよりも広く深い作品だと思ったのですね。せいぜい国内の大正以後の文脈の物語なのかも? くらいの気持ちで観に行ったら、ピラミッドを作る動機の是非の話とか、先人のイタリアの設計士カプローニさんが夢幻的に出てくるあたりから、これはもう、通時的かつ共時的(舞台も日本だけにとどまらない)に、人類の歴史として、果たして「ピラミッドがある世界」を選択したのは正しかったのか? そのくらいの射程で作られている物語だと思いました。

 印象的にカプローニ氏が問いかけた「ピラミッドがある世界とない世界のどちらを選ぶ?」という部分ですが、「ピラミッドがある世界」の方が、破滅と表裏なのかもしれないけれど、技術を求め美しいものを構築していく世界、ということだと思います。ハイデガーとかの哲学の「制作」と「生成」のうちの「制作」側を進めていった世界、と言うと難しいかもしれないですが、くだけて言えば「技術文明と共に進んでいく世界」くらいに言うと咀嚼しやすいかもしれない。

 「制作」か「生成」か、「技術」か「自然」か、宮崎駿監督の作品にはずっとついてまわっていた主題ですかね。例えば広くは冒険活劇譚として受け入れられている『天空の城ラピュタ』も、「技術」文明側の進歩の象徴であるラピュタの負の側面が描かれていき、最後は「バルス」でそれを否定して大地に返っていくという側面がある作品であるという所あたりまでは、わりと語られている事柄かと思います。

 本作『風立ちぬ』で、そうした技術文明と共に進んでいく過程で(破滅と表裏だとしても)構築した美しいもの、として出てくるのは飛行機であり、零戦です。けれど、そこにはおそらく宮崎駿監督自身の「アニメ制作(アニメ構築)」も気持ちとしては重ねられてるんじゃないかな、とはけっこう多くの視聴者が感じた所ではないかと思います。

 そして、そういう「構築」を一気に破壊してしまうものの象徴として、大きくは関東大震災と第二次世界大戦が出てきています。この辺りは真剣な気迫を感じたので、現実の東日本大震災後の意識で宮崎監督が作った作品である点は、誠実に踏まえて鑑賞したいなと真面目にも思ってしまいました。現実世界でも、「ピラミッドがある世界」を選んで構築してきたものが、大きく破壊されてしまう出来事が起こった文脈で作られているであろう作品だと。

 ただ、この映画は解釈は難しい。結局、「ピラミッドがある世界」の中で技術文明と共に(そこには美しさもあった)零戦を作ってきた主人公は正しかったのか(辿り着いた場所は破滅だった)。そこは明確には描かれてないと感じました。最後にね、何かしら「大きい破壊はあったけれど、それでも構築してきた過程で残った大切なものはある」みたいなシーンが入れば、とても分かりやすい映画だと思うのですよ。でも、そういうシーンは入らない。最後は大破した零戦が並ぶ不思議世界で、ヒロインの菜穂子から「生きて」と言われる。主人公はその後も生きていかないといけないけれど、その前にカプローニ氏(この人は作中で明確に自分の意志で「ピラミッドがある世界」を選んだ人)と一緒に酒を飲む。そんなシーンで終わりです。

 僕なりの解釈ですが、「ピラミッドがある世界」が正しかったのかとか、やがて破滅に辿り着いたとしても零戦を作った意義はあったのかとか、はたまた宮崎監督のこれまでのアニメ制作に意義があったのかとか、もう、良かった悪かった、是か否かで語るような境地には、もう宮崎監督はいないのかなと。自分がその境地に辿り着けてないので深くを咀嚼することはできないのですが、もうそんなことは悩みに悩み、考えに考え抜いた末に、老境の宮崎監督が至った風景を、少しだけ美しく凝縮して見せてくれたのかな、そんな感想を持ちました。上述のような構造、文脈の中で、現在至ったメッセージが「生きねば」だというのは、やっぱりズシリとは来るのですね。公式サイトの文章にはありますが、少し漫画版の『風の谷のナウシカ』のラストを彷彿としました。ナウシカと同じくらい、宮崎監督的に原風景にあった作品を今回、この時世のタイミングで具現化したということに、色々と感じ入りたい一作でありました。

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