アニメ『Free!(公式サイト)』第2話「追憶のディスタンス!」〜第4話「囚われのバタフライ!」までの感想です。
 ネタバレ注意です。
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 このブログでもちょくちょく書いてきましたが、京都アニメーションが作っている作品には共通する主題が一つあって、それは言うなれば「日常の輝き」です。もうちょっと言うと、「"日常の輝き"をどう回復するか」。物質的には豊かになったはずの現代なのに、虚無感やうっくつ感ばかりがつのって自殺率も高い。何とかならないの、というような問題意識。これは、『涼宮ハルヒの憂鬱』も『らき☆すた』も『けいおん!』も『氷菓』も『中二病でも恋がしたい!』でも、どこかに必ずこの要素が入っていて、最終的に少しずつその作品なりの解答を描いてみせています。それぞれの作品の解答がどんな感じなのかはこのブログの各作品感想でもかなり書いているので、そちらを参照して頂けたら幸いです。

 中でもヒットした度合いや、サブカルチャー評論的なものに影響を与えた度合いなどで、ゼロ年代(2000年から2009年頃までの作品を通常指す)の金字塔として重要なのは『けいおん!』で、五人組の女子軽音楽部の「輝いた今」が描かれ、また、卒業と同時にその「輝いた今」は失われてしまうのか? という所まで踏み込んで描いていた作品でした。

 で、そういう文脈を踏まえて、やっぱり4人+1人の部活ものという構成での、今回の『Free!』ですよ。

 『Free!』で「輝いていた時間」として描かれるのは、「小学校時代のスイミングスクールでいっしょだった頃」です。過去系なんですね。そして、それが経営破綻して取り壊される所から始まっているというのが、物語上重要になっている。つまり「けいおん!」的な「輝いた今」は壊れてしまった所から始まっている物語だと思うのです。

 この言葉使うと強力なんで迷ってたのですが、直接的に言うと、テーマ上はアフター『けいおん!』だと思うのですね、『Free!』という作品は。

 『けいおん!』は、後半「輝いた今」は卒業と同時に終わってしまうんじゃないかという不安が描かれていって、だけど最終的にそんなことはない、街のライブハウス、夏フェス、知人の結婚披露宴、ロンドンのイベント、「学校の部室」から卒業したって、外の世界で「輝いた今」は続けていけるじゃない。演奏していけるじゃない。ライブ続行できるじゃない。そういう意味ではずっとずっと一緒だよ、と、「分断される不安」を物語上乗り越える所で終劇しているのですが、アフター『けいおん!』たる、この『Free!』は、そんなに甘くなかったという所から始まってるんですね。

 スイミングスクールは取り壊される(『けいおん!』で軽音楽部は廃部になってたみたいなもの)、松岡凛はオリンピック目指して水泳留学(「この講堂が武道館」とした『けいおん!』で一人だけ、空気読まずに、いや、おれ本物の武道館目指して競争するわ、とか言い出した感じ)、七瀬遥は競泳をやめてしまっていた(唯もギターやめちゃってたみたいな感じ)、笹部コーチは水泳と関わるのをやめてピザ屋のバイト(律っちゃんあたりが社会人になったらやっぱり音楽やめちゃってバイトに忙殺されてるみたいな感じ)。大人になったら、やっぱり「輝いた今」は続けてられなかったのです。現実は厳しい。

 そういう出だしなので、ゼロからスタートする物語ではなくて、やっぱり再生とか再構築の物語なのですね。遥は競泳はやめたけど、水と泳ぐことはやっぱり捨てられなかった。上昇志向で競争側にいった凛も、やっぱり昔の縁を気にしている。そして、新しい出会いとしての竜ヶ崎玲君、と。

 エラく長いパートを使って、「荒れ果ててしまった学校のプールをみんなで修復する」シーンが描かれるのですが、このもう一度始めるために、コツコツとまた修復する、積み重ねるという描写は良かったですよ。現実にも、『けいおん!』と『Free!』の間に東日本大震災があったわけです。やはり僕が観てる範囲でですが、震災後の一線の作品には、「大きい破綻からの修復」要素が入ってる作品が多いです。それはプリキュアとかジャンプ作品とかでも同じ。大人になっても「輝いた今」を続ける、みんな一緒、とか、難しいことは分かった。現実は厳しい。でも、もう一度2010年代の文脈で「輝いた今」にチャレンジするなら、まずはみんなでプールを修復するところからだ。

 そんな流れで、僕の友人・知人で、まこ×はるにハマってる人が多いのですが(笑)、これはBL目線抜きでもちょっと分かる。真琴は、そういう大きい破綻や断絶、分断があった中でも、ずっと遥の側にいてくれた友人というポジションですからね。これは萌ゆる。

 第4話時点では、ようやっとプールが直ってみんなで水に入ったところ。新しい関係の象徴的な、だけど泳げなかった竜ヶ崎君が泳げるようになったところまで。一人競争世界に行ってしまって「めんどくせぇ」凛君との関係を中心に課題が盛りだくさんですが、違う学校でかつ思想的にも違う所にいった凛がいるからこそ、この人間関係でもう一度「輝いた今」を描いてくれるなら、それは『けいおん!』から一歩進んだ世界だとも思います。今、非常に楽しみな作品です。

→良い

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→前回:『Free!』第1話「再会のスターティングブロック!」の感想へ
→次回:『Free!』第5話「試練のオープンウォーター!」・第6話「衝撃のノーブリージング!」の感想へ
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