アニメ『Free!(公式サイト)』第7話「決戦のスタイルワン!」〜第12話(最終回)「遥かなるフリー!」までの感想です。
 ネタバレ注意です。
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 前の方の感想に書いた通り「共同体」を扱ったテーマの作品として、京都アニメーション文脈で『けいおん!!』アフターの作品だった、というのが最終回を観終えての感想です。

 幼少時間的、児童時間的な"輝いた今を共有する仲間"という共同体(『けいおん!!』の軽音楽部、『Free!』の幼少時代のスイミングクラブの四人)の時間は幸せだけど、やがて年齢を重ねるごとに、厳しい現実の前にそんな共同体は壊れていく。じゃあ、どうしたらいいんだろう、という話。

 そういう児童時間的な"輝いた今を共有する仲間"という共同体を壊していってしまう方向の力として、『けいおん!!』でも描かれていたのは上昇志向とか、競争を勝ち抜いて強者になるぞ、という方向の意志。そういう方向でより強く、より速く、より強大に、競争の中を勝ち進むぞ、と求めていけば、自然と「昔の仲間」は置いていくことになる。輝いていた共同体は、壊れてしまう。『けいおん!!』では本物の武道館を追う意志と、「この講堂が私達の武道館です」という意志とのシーソーゲームで描かれていた部分。

 で、終盤近辺で明らかになったのは、『Free!』でも昔の輝いた共同体、幼少時のスイミングスクールの四人の共同体が壊れたのは、凛がより強く、より速くと競争の中の上昇志向を追っていったからなのね。もっと言うと、追ってみたんだけど、厳しい競争世界の現実では勝ち抜けなかったから(オーストラリア留学時代の話の部分)。前回の感想で書いた「痛みを共有するのが仲間」という話。凛の痛みはその部分にあったと。

 で、終盤、凛と怜が重なって描かれる二人になりながら、そんな「壊れてしまった輝いていた共同体」を修復するための試案のようなものが描かれて終幕。

 「壊れてしまった輝いていた共同体」を壊してしまう方の力、上昇志向、競争、より速く、より強大にという意志、というのは、「限られた椅子を競争で奪い合うゼロサムゲームに勝つ」という意味合いが含まれます。その厳しい現実の競争世界で、かなりイイ線までは行ったんだけど、でも勝てなかった二人というのが、実力はあったんだけどオーストラリアでは勝てなかった凛と、実力はあったんだけど陸上でもう一つ壁を越えられなかった怜。競争を志向しての敗北は必然的に孤独を伴うので、部屋で一人ぼっち感出してる凛のシーンと、部屋で理論書だけ積み重ねて一人でいる怜、というのは同じ方向の「孤独」の描写かと思いました。そして、孤独だからこそ、よりどころとして、他人を求める、仲間を求める。仲間、チームという存在に救いを求める。終盤のキーワード、"For the team"はけっこう湿っぽい文脈で出てくるんですよ。

 孤独だから、児童時間に幸せだった頃のような"輝いた今を共有する仲間"という共同体を希求してしまう。だけど現実は厳しくて、最後まで「ゼロサムゲームで競争で奪い合う厳しい現実世界」というのが立ちはだかってくる。凛は限られた四人のリレーという椅子から非実力者、敗北者としてメンバーから外され、もう水泳は辞めると、文字通り「競争の中の敗者としてその世界から退場」。

 というところで、最後に「ゼロサムゲームで競争で奪い合う厳しい現実世界」というものへの抵抗が描かれる。岩鳶水泳部のリレーの四人の枠、というのも、いわば限られた椅子です。それを競争で奪い合っていく志向性こそが、"輝いた今を共有する仲間"という共同体を壊してしまった力なんだけど、最後、その力に抵抗するように、怜が「奪い合うのではなく、椅子を譲る」ということをやるのね。

 かくして、一時の夢として(すぐ失格になったから)"輝いた今を共有する仲間"、児童時間的、遥、真琴、渚、凛の黄金の共同体の再生が最終回のリレーで実現する。椅子を譲った怜は当事者としてその中には入れないけれど……というラスト。スポーツもの的に熱いというよりは、文芸よりのけっこう湿っぽい最終回でありました。自分は当事者として入らなかったけど、そのこととあの四人の共同体が本当に輝いていることは別なことだから、怜は本当にあの四人は美しいと述懐する……というようなくだりは結構切ないよな。

 本当『けいおん!!』から繋がってるような話だよなと思いつつ(『けいおん!!』も終盤は軽音楽部の五人という共同体が持続可能なのか、というのが最大の焦点になる作品)、このテーマはまだ伸びしろがあるとも感じました。かなりヒットしたようなので『Free!』の二期もあるかもなのでそこで描くのかもしれないし、続いて行く文脈として他の次の京都アニメーションの作品で描かれていくのかもしれない。もう一歩先、怜も凛も心から笑えて、児童時間が終わって卒業したりしても、続いて行く「輝いた共同体」とはどんなものなのか、どうやって可能なのか、みたいな、伸びしろがまだまだあると思うので。

 しかしビクビクとして一話を観はじめつつ、堪能した作品でした。天方先生もかつて(おそらく)グラビア水着アイドルを志向して何らかの形で敗れて教師になった人で、笹部コーチもスイミングクラブが経営破たんしてピザ屋のバイト生活。メイン五人も含めて、厳しい競争世界の現実の中で一度敗北、破綻したキャラクターたちが、何とか学校のプールを修復する所からはじめて、新しい共同体の形を希求していく物語だったと思うのですよ。それを、水泳という無標では競争がメインの題材で描くという。大変面白かったです。





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