『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語(公式サイト)』の感想です。

 記事中に劇場版本編およびTVシリーズ本編最後までのネタバレを含むのでまだ観ていない方は注意です。
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 個人的にオールタイムベストくらいの作品でしたので、本当、事前のネタバレを入念に回避して劇場に赴き、鑑賞後は余韻に浸れる時間を十分にとり、一生ものの劇場体験にできる素地を作って観られることをお勧めしたいのです。

 この打ちのめされて放心して劇場から出てくる感覚、観る前と観た後で違う人になったんじゃくらいの感覚、本当久々というか、いい大人になってもこういう体験させてくれるんだなという映画だったのでした。

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 では、以下ネタバレで感想。

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 便宜上、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』の物語を三層に分けて書いてみるのです。


一層目:魔女ほむらが作り出した虚構と安寧の見滝原市での物語。

二層目:虚構と安寧の見滝原市を壊して外に出る物語。魔女ほむらの救済のためにみんなが奮闘する物語。

三層目:ほむらが悪魔化して、再度の「法則の書き換え」が行われる物語。


 僕も昔の感想で書いてますし、色々な人も語っていますし、脚本の虚淵玄さんのインタビューなんかも読むと作り手も意識してるところがあるのかな、という話として、TVシリーズ『魔法少女まどか☆マギカ』は、ゼロ年代(主に2000年〜2009年あたりを批評の世界とかでこう呼ぶことがある)の総括の物語のような側面がある作品です。ループとか、一回性の真ルートの獲得、とか、もろもろ。その辺りは昔の感想など参照して頂けたら幸いです。

 で、一層目と二層目までは分かる。

 これは、ゼロ年代の物語+アルファ、くらいの感じ。願望がかなったif的な虚構の安寧の世界、とか。そこから出なきゃいけない物語、とか。一人、世界の真相を知ってる存在がいる(さやか)、とか。虚構世界を作り出していたのは自分(ほむら)自身、とか。虚構的な存在(マミさんや杏子)にもできることがある、とか。ゼロ年代作品にあったあった。それらを受け継ぎ、少しその先を描こうとしてきた、例えば去年2012年、今年2013年に発表された作品にもあった。

 実際ここまでで作品として十分じゃないかくらいにも感じて、自身が作り出した虚構の檻からほむらが抜ける物語で十分熱かったと思うのですよ。そのために仲間が協力してくれる、とかね。特異存在的に、まどかの記憶の運び手として法則書き換え前の世界の記憶を保持しているさやかが、ほむらに、一人で抱え込むなと言う、とかね。マミさんが願った仲間がいる世界だし、杏子が悲劇を背負っておらずさやかといられる世界だけど、その世界を壊すことになってもマミさんと杏子も手助けしてくれる、とかね。この辺りで十分ボロ泣きでしたよ。ほむらの悠久の孤独と絶望の救済の物語として、これで充足かつ豊穣、という。

 でも、この『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』は、そこからさらに先、三層目の物語があるのね。二層目までの物語すら前座にして、悪魔化して再び世界の法則を書き換えてでもまどかを希求する、というほむらの物語が。

 度肝を抜かれましたね。

 二層目までの感動をどうしてくれるの、みたいな。

 それでも、僕は時間差でじわじわきたのですが、前回の『[後編]永遠の物語』の感想までで書いていた、TVシリーズまでの『魔法少女まどか☆マギカ』に残る疑問点、課題点、「結局まどか一人を犠牲にして世界の均衡を保ったんじゃないの?」に対するには、やっぱり三層目の物語がアンサーになってると思うのですね。

 二層目までだと、絶望や孤独の救済としては美しいけど、やっぱりまだほむらは助けて貰ってる側なんですよね。仲間に、神的なまどかに助けて貰う側。今作では、さやかにまた一人の世界に逃げ込むのか? と指弾されるシーンが印象的だけれど、二層目までだと、一人で孤独のループを続け(一種の逃避の側面があると描かれていると思う)、最後に結局全部背負ったまどかに世界を助けて貰ったTVシリーズと、そんなに変わっていない。

 だから、2013年公開の今作では、絶望すら踏み台にして、ほむらの方でも世界の法則を書き換えてまどかを希求する、という三層目の物語に突入する。独占欲なのか執着なのか、やっぱり劇中の言葉通り「愛」ってことなんだと思うのだけど、呼称されてる通り「悪魔」の所業的でありつつ、でも「まどか一人を犠牲にしない」側面が、やはりある。一方的に助けて貰って、救った人と救われた人になってたまどかとほむらの関係を、ほむら側が自身が悪魔になってでも同格に戻した。ということだと思ったんですね。

 この三層目の物語が、本当にゼロ年代の物語の先へ繋がるのか、果たして正しいのかは現時点では分からないのだけど(2013年以降を生きている我々がまだ答えも分からないので)、圧倒的に問いかけているとは感じたのですね。あなたにはそこまで希求する存在がいますか、と。あるいは誰かの犠牲のもとで均衡を保った世界を安寧として、無謬のものとして受け入れていないか、と。確かに「叛逆」を描いてる映画だと思いました。

 虚構の見滝原市内で、ほむらがまどかもTVシリーズのラスト、本当は孤独だったということを、虚構まどか(と言っても設定上真まどかと同じみたいな感じになってる)から聞く……というシーンがありましたけれど、本当に自身を賭して希求する存在がそうやって犠牲になっていたのだとしたら、自分が悪魔になってももう一度その人に会いに行く(もっと行って「手に入れる」くらいになってる勢いでしたけど)。それができるか、みたいな物語ですよね。そして、グリーフシードを絶望よりもヤバい何かに染めながら、悪魔になってもまどかに向かって突き進んでいくほむらの姿は、やっぱり美しいんです。悪魔的だし破滅的な香りもするけれど、そうまでして、まどか一人を犠牲にしない、自身もまどかと同格でありたい、という願い、劇中の言葉で言えばもっと進んで「愛」ゆえの前進なので。この、ほむまどが友情も百合も超えてなんかすごい関係になってる感は凄いですね。

 ラスト。再書き換え後の世界。秩序で神のまどかと、混沌(劇中で言葉にはされてないけどたぶん)と悪魔になったほむらが、TVシリーズ第1話をリフレインしながらもう一度出会う。スケールは宇宙的になってるけれど、原点はシンプル。構図としては、TV版とは逆になっていて、つまりはほむらがまどかにアンサーを返した。

 TVシリーズラストで一方的に救われて渡された赤いリボンを、やっぱりあなたの方が似合うわねと言ってほむらがまどかに返すシーンで、圧倒的に物語は「閉じて」いるのです。

 最後のエンディングが、やっぱりTV版と同じ影絵(というのだろうか?)エンディングなのだけど、TV版は敢然と歩いて行くまどからしき影をほむららしき影が引き留めようとして、でも引き留められない、、というエンディングだったのに対して。「叛逆の物語」のエンディングは、まどからしき影とほむららしき影が同格存在として並列に隔たれた場所で描かれながら、最後に手を繋ぐ……というラスト。ああ、とんでもないことやっちまったかもしれないけれど、ほむら、まどかと同格になれたんだね。そうまでして、同格の二人として一緒にいたかったんだね……と、ここは感無量。

 少しメタフィクション的に語れば、ゼロ年代の物語に存在した、「自身が犠牲になって世界に均衡(ハッピーエンド)をもたらした存在」に対する救済を描いた物語だと思いました。そうできる存在に、2011年以降の我々はなっているか、またなることが正しいのか。

 例えば、

「『Fate/stan night』(ゲーム版)/『Fate/Zero』のネタバレ/桜ルートのハッピーエンド(に見える)風景のために犠牲になったイリヤの、あるいは虚淵さん脚本なので、世界と切嗣のために自身を捧げたアイリスフィールの、そういった存在を救済する物語だったのかもしれない。

 例えば、

「『仮面ライダー龍騎』のネタバレ/最終回のハッピーエンド世界のために犠牲になった、優衣の、ゼロ年代の物語では「そのラストにはいないことが残留感」という描かれ方だった存在を救済する物語だったのかもしれない。

 物語の末、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』では、良いとか悪いとかは分からないけれど、一人犠牲になって世界を救ったまどかに、ほむらは一つアンサーは返した。

 観終わった後は、意外にも、姿勢を正してちゃんと生きよう、みたいな気持ちでしたね。単純にこんな凄い映画作る人たちがいるのだから自分もちゃんと生きようというような意味でも、また、終盤の壮大な話の一方で、でも序盤で描かれる日々働いているまどかのお母さんを否定してるわけでもないんだろうな、という意味も含めて。まどか弟が二つのプチトマトのうちの一つを落として(誰かは犠牲になりそうになる)、まどかお母さんがそれを受け止める、TVシリーズにもあった象徴シーンは今作でも健在なのね。エンディングとしては犠牲になったまどかを悪魔になっても希求したのはほむらだったけど、一方でTVシリーズ終盤、ワルプルギスの夜に、まどかが行ってしまうのを止めることができなかったまどか母だけど、日々働いたり、その世界で当たり前に子に愛情を注いで生きている人たちが、何らかの犠牲になりそうな人を、受け止めているかもしれないんだと、そこは、信じたい。

 オールタイムベストクラスの作品。再書き換え後の世界で、悪魔ほむらと、記憶保持さやかが会話してるシーンとか、ゾクゾクきましたね。もう何回か劇場に足を運びたいと思います。

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