高畑勲監督作品、昨日公開された映画『かぐや姫の物語(公式サイト)』の感想です。
 ネタバレ注意です。
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 『竹取物語』をそう解釈して描いたかという感想でしたが、三層の「場所」から展開される物語で、それぞれ「山」「都」「月」ということかと思います。

 「山」が現代人が忘れかけてる自然との共生や互助とか人間中心史観からの脱却とか、そういう生活の象徴で、「都」が現代社会にも通じる消費文明とか資本主義社会の場(ここでの苦悩は「三日三晩の宴」=搾取の上で成り立ってる消費とかそういう側面が強い)、ラストの「月」は安寧とか、あるいは最後に迎えに来た人たちの中心人物がエラく仏教的な感じの人だったので(ここ、エラくブディズムチックな人来たな! と面白かった)、悩みのない「悟り」の世界なのかもしれない。

 で、「山」を現代人が忘れがちだけど大事なもの、というような回帰点として描いてるのは分かる。実際、美しい背景美術が説得力を持って訴求してきて、映像として、ああ、こういう自然の循環とか互酬の中で生きる生命っていいなぁと感じてしまいます。

 そして、「月」が、地上人的、現代社会の価値観、精神性よりはもう上位にいられる場所らしいけれど、そういう地上の「胸のざわつき」を忘却してそっちに行ってしまっても、果たして良いのだろうか? という場所として描いているのも分かる。

 で、解釈が難しい、というか別れるように描いてるのは「都」だよな、と思いました。キーワードは「偽物」で、山の暮らしに回帰衝動を持ってるかぐや姫は庭に偽物の山の暮らしを作るし、姫に求婚してくる人たちは偽物の「蓬莱の玉の枝」を始め偽物ばかり持ってくるし、そんな偽物で希求される姫自身も、私は偽物だ、とか言い出す。その偽物の虚構的な暮らし=現代人が積み重ねてるような暮らし……に意義はあったのか? みたいな映画ですよね。きっかけとしては帝に夜這われそうになって(強者からの搾取)、思わずもうここにはいたくない、と月に助けを姫は求めてしまうのですが、その後はやっぱり帰りたくない、とも言い出すのね。ここに、地上の「都」に関する複雑な心情が滲み出ていて、まさに光も影も、愛も憎も、浄も穢も、という感じ。

 「都」に関してはその「揺れ」があるので、最後月の人達が迎えに来た時、ずっと作中で存在感があった面白い顔の姫の侍女(当時の言い方だと何だっけ)が、都の貧困層と思われる子供たちを連れて歌いながら行進してくる所で、かなり胸に来たんですね。明らかに来訪してくる月の人達の一団と対照されてる行進と思われ、月の人達は非常に文化的にも洗練されているっぽい集団だし、楽しそうで、心のざわつきもないらしいのだけど、地上の矛盾の中で、汚れを伴いながらも歌い、歩いてくるあの侍女の一団の姿が、やっぱり少しだけこの偽物的で虚構的で搾取文明的、消費文明的な世界にも、意味はあったんじゃ、あり得たんじゃ、なんて思わせてくれる素地を残している。

 なので、宮崎駿監督と高畑勲監督がそもそもセットで語られることが多いですが、今年公開された映画だと宮崎駿監督の『風立ちぬ』とテーマ的にセットで、二つ一緒に観るとより立体的になる映画だと思いましたね。

 「都」的時間、現代消費文明的時間、に対する、おそらくは作り手も持っているだろうし、視聴する人々も潜在的に持ってるであろう相克、揺れ、そういうものを作品に昇華しているというか。『風立ちぬ』で堀越二郎が零戦を作る時間、結核の菜穂子と過ごす時間、あるいは象徴としての煙草、零戦、なんていうのは、『かぐや姫の物語』における「都」的なものとかなり重なると思うのですね。「やがて終わりが来る」のも同じだし、「山」に帰れるほど自然万歳とももう叫び難ければ、「月」の人ほど悟りに入る精神性にも至れない。その間で揺れながら、矛盾だと知りながら、零戦作ったり菜穂子と過ごしたり、都の文化として琴を弾いたり、翁と媼、相模と侍女とかと過ごした時間は、果たして無駄だったのか? そう思うと、偽物の翻弄と喧騒に映る、求婚者たちのある種「滑稽」なパートも、「月」的なイデア的、悟り的、至りきった境地から視てみると(印象的に月から地球を眺めるカットも入りますが)、愛憎込みでちょっと愛しく見えたりもするのですね。何か、初視聴時では奥の部分までは咀嚼しきれなかった『風立ちぬ』の方も、この映画をみてだいぶ腑に落ちた気分。

 そういう意味で、鑑賞後の感想は、『風立ちぬ』のコピーの「生きねば」に近かった。「月」的な完成、安寧、悟り、そういう世界から相対化して見てみれば、地上に生きる生命(虫とか草花、動物、そして人間という描写が豊富な映画でしたね)たる我々は全然「至れ」てないし、偽物的で汚れも伴っていて、愛憎含んでるかもしれないのだけど、いきなり月の住人になれるでもなし、この地上で苦しくても這ってでも生きていくしかないんだなと、そういう辺りに落ち着く作品でした。

 「山」の自然や互酬、共生、生命感と共に生きること(象徴のキャラクターとしては捨丸や炭焼き老人)への郷愁を揺さぶりつつ、ラストは「月」的な価値感からの俯瞰、最後に、「地上」で生きるあの侍女が汚れた格好の貧民の子供達と歌いながら行進してくる……という絵に落とすという物語を、『竹取物語』の原典を押さえつつの再構築でよく描いたな、と。良い映画でした。

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