毎年恒例、その年に触れた作品などで良かったものを、僕の主観でベスト形式で記載しておこうのコーナー。

 前回の2013年の「漫画部門」の記事はこちら。

 今回は「小説部門」となります。

 以下、基本的に内容のネタバレを含みますので、回避の度合いは各自で注意お願いします。
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第5位:井上敏樹『小説仮面ライダー龍騎』

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 思い出補正も加わりつつのランクイン。初めて触れる人にお勧めするなら、やはりTVシリーズ全49話ですが、放映当時ディープなファンだった僕としては、10年近くぶりのボーナスコンテンツとして満足。

 「一人一人にどうしようもなく譲れない正義があるなら、正義の数だけお互いが殺し合うバトルロワイヤルになるしかない」という数多のゼロ年代バトルロワイヤル作品の初期の作品でもあるのですが、今回の小説版では小説版なりにTVシリーズとはまた違う解法を示唆してるのも好感。

 いわく、「仮面をとって本心から話し合う」ということ。匿名でネットで幻想イデオロギーに駆動されて罵り合ってるだけじゃなくて、実際に会ってその人本体の背景も知ってみよう、その上で言葉を交わしてみよう、みたいな感じで。いや、ネットの例えは今思いついたんだけど、でも方向としては本当そんな感じの落としどころに向かっていく小説版。

 コンセプトが「あの時(TVシリーズ時)戦わざるを得なかった登場人物たちの過去(背景)」ということもあり、メタにこの小説自体が対話になってる感じ。やはり、印象で全否定する前に、背景を知るのは大事なのです……。







第4位:奈須きのこ『空の境界 終末録音/the Garden of oblivion』

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 『劇場版「空の境界」未来福音』の入場者限定特典で配布された奈須きのこ氏本人が執筆している小説。

 『空の境界』ムーブメントのボーナスコンテンツとして、色んなシチェーションで動くキャラクターたちがまた見られて満足、という基本面白コンテンツなのですが、その上で実は話に縦軸もあり、大オチも(一応)ある、という、この一冊自体が小説『空の境界』をなぞってるという、結構凝ってる一冊。時系列バラバラ手法などに顕著なように、各章、各場面は断片的、虚構的に儚い、というのを描きつつ(作者本人のインタビューにもそういう趣旨のものがある)、それでも未来に繋がるものもある、とした『未来福音』とまでコンセプト的に符合する部分もある、というよくできた一冊。

 この辺りはパラレル二次創作なシチェーション小説としてのボーナスでも十分よかろう所を、凝ってくるあたりに「物語」にこだわる奈須きのこ氏あり、という感じ。やっぱり、ソーシャルゲーム的な枠組みだけ用意して、物語はユーザー各々の脳内で自分の快楽に準じて勝手に作って楽しんでください、だけでは寂しいよね。





第3位:森岡浩之『星界の戦旗5 宿命の調べ』

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 8年ぶりのまさかの刊行(しかも前巻は「次巻に続く」的だった。)。あとがきを読むと、森岡先生も死にかける経験をされていたりと、シャレになってない感じながら、それでも俺はSFを書く、『星界』? 続けるよ? という気概が感じられる、ああ、2000年前後、星界シリーズに熱中した僕らの時間は報われている、と思った一冊。

 帝国が壊滅する危機の中、各々の登場人物たちがとった行動、思念が美しい、という、前巻『軋む時空』のあとがきで「前半のクライマックス」と呼称されていただけあった、山場のストーリー。『星界の紋章』〜『星界の戦旗』のアニメ版も金字塔だと思ってるのですが(作中用に作られた人工言語、アーヴ語で喋るアニメとか、中々ない)、このエピソードまではアニメ化されることはないのかのう。それは寂しい。

 大きな破滅が描かれる中、サムソンさんと合流する所で涙腺にきたよ。『星界の戦旗1 絆のかたち』(全巻の中で僕が一番好きな一冊)、突撃艦バースロイルの物語とか、もう読んでたの10年以上前なので、リアル時間とリンクさせて受け取ってしまっていたのだけど、サムソンさんはラフィールも偉くなったし(何しろ皇女なので)自分のことなんか忘れてるだろうくらいに思ってたら、ラフィールの方はしっかり覚えてる、え、あたりまえでしょ、というくだりにやられた。これ、最終戦はソバーシュとかエクリュアも合流するのだろうか。作者様の寿命との戦いが始まってる感もありますが、本当に最後まで読みたい。この小説、本っ当に面白いんだよ。





第2位:米澤穂信『氷菓』

 アニメ版に熱中してたのは去年ですが、感想書いてなかったですが、僕が原作小説を読んだのは今年なので。アニメ版もBlu-ray刊行は今年まで続いてたので、とりあえず今年枠で。

 まず、アニメの京都アニメーションの映像も圧巻だったのですが、原作小説は原作小説で、テキストの隅々まで「行き届いてる」感じが、テキスト作品単体でも傑作だと感じました。選んでる言葉の数々、その組み合わせ、総体としては「文体」が美しい。ここで「俊英」という言葉を使うか、とかそういう所に感動。大オチも「言葉」に精通してる者なりのものですしね。

 ストーリーがまたじわじわ奥にくる感じでね。千反田さんが33年前の関谷純の出来事を探ること、それに奉太郎が手を貸すこと、現代のファッションな価値観からしたら、意味なんてないんですよ。金、恋愛、ダイエット(笑)、何が手に入るわけでもない。

 ただ、受験だ仕事だ子育てだ介護だと謀殺されがちな昨今だからこそ、貴重な自分たちの時間の大部分を使って、世間的には何の価値はなくても、おそらく自分の実存と関わる謎を探る……という「あり方」そのものがもう美しい。


 全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。

 いつの日か、現在の私たちも、未来の誰かの古典になるのだろう。



 伯父、関谷純の真実に到達した時に、千反田さんは一筋の涙を流す。その涙が、資本世界のファッションとも効率性とも異相を異にしつつ、でも本人にとってはやっと到達した大事な涙で、そういうことがあっても、やはりイイ。

氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信
角川書店(角川グループパブリッシング)
2001-10-31


氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信
KADOKAWA / 角川書店
2012-10-01




第1位:村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

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 こちらもテキストの可能性を感じさせてくれた「これぞ小説」という一冊でした。叙述トリックを使ってるとかそういう分かりやすい方面のテキストの可能性じゃなくて、文章の隅々まで「宿ってる」感じが純粋に凄い。序盤の、もう死ぬしかないという勢いで絶望している多崎つくるを描いてる箇所の筆致とか凄い。あと、僕が関心があるのは「日本語の感覚を生かした英語」なのだけど、今回、村上春樹文体というのは、「英語の文芸的感覚を生かした日本語」という側面もあるのか? とちょっと思ったのでした。それこそ村上春樹本人が翻訳も出してるJ.D.サリンジャーとかの英語の筆致と、何かしら通じるものを感じる日本語。この辺りは探せば研究出てるのかもだけど。

 ストーリーとしては時世も反映して今年多かった「壊れた共同体の再構築」を扱った作品です。『黒子のバスケ』とか『Free!』もそんな話でしたが、エンタメの縛りを外して(エンタメ要素がないわけではない)、文芸として最高峰の作家が描くとこうなる、という感じ。

 村上春樹読者としては、「壊れた共同体」というのは、「ジェイズバー」で「鼠」と語り合ってる「僕」というような類のものかもしれないし、愛の話で言えば、最後に「ユミヨシさん、朝だ」と囁ける共同体(人と人との関係性)なのかもしれない。でも、そういったものは壊れてしまった時間、場所を僕らは生きている。

 そういう世界での、作品題通り「巡礼」の物語です。魂の救済の断片を描いてしまっている。傑作。




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 と、とりあえず小説部門はこんな感じで。

 小説ではないですが、書籍くくりでいくと、今年は櫻井孝昌さんと声優の上坂すみれさんの共著『世界でいちばんユニークなニッポンだからできること〜僕らの文化外交宣言〜』(感想記事はこちら。)も良かったですね。来年からの活動の一つの指針を貰えた感じ。

 オタク文化と文芸とではまた世界での受容のされ方が違うかもしれませんが、おりしも村上春樹作品を一位に選んでみました。村上春樹作品とかも、毎年ノーベル賞候補になるくらい、国際競争力があるコンテンツという側面もあるわけで。

 来年は謎のコンテンツホルダーたちの徒党として、世界を駆けられるような、駆けられないような。萌芽と、それらを豊穣にしていく志向性は大事にしたい。

2013年ランゲージダイアリー的ベスト、「アニメ部門」
2013年ランゲージダイアリー的ベスト、「漫画部門」
ランゲージダイアリー的「2012年にふれた作品ベスト10」(去年は一まとめの記事でした)
ランゲージダイアリー的2011年ベスト/アニメ編
ランゲージダイアリー的2011年ベスト/小説編