という訳で公開初日に朝一で観てきました。地元仙台が舞台のアイドルアニメ『Wake Up, Girls!(公式サイトニコニコチャンネル)』。まずはTVシリーズの前日譚たる映画版、劇場版「Wake Up, Girls!七人のアイドル」。

 以下、感想ですがネタバレ注意です。

 良かったよ……。
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 劇中でも語られてる通り、そしてリアル世相を観ても「アイドル戦国時代」、どこもかしこもアイドルの世の中です。

 そして、そこからの派生なのか相互関係なのか、アイドルアニメ戦国時代だったりもします。僕もわりとアイドルアニメ観てきた人な気がしますが、ここまで「アイドル」と一種の「幸福論」をストレートにかけてきた作品は初めてのように感じます。

 物語冒頭のモノローグで、「幸せ」の贈与に関して、三種類の人間が語られる。


一つ目は、沢山の人達を幸せにできる人。
二つ目は、身近な回りの人達を幸せにできる人。
三つ目は、自分自身を幸せにできる人。


 一つ目の「沢山の人達を幸せにできる人」の頂点たる劇中のアイドルグループ「I-1クラブ」、これはまあリアルの「AKB48」ポジションをかなりダイレクトに写像してるのだと思いますが、そういう人たちの東京のライブの場から、ぐーっと地方、ローカル、仙台の弱小芸能事務所に舞台が移ってくる冒頭の描き方は上手いのです。なんかもう、「幸せ」には厳然と格差が存在しているかのよう。中心と地方、という話だし。山本監督もインタビューで東日本大震災が作品の動機の一つと語ったりされてる所からは、国の首都と、被災地の一地方都市、という話にもなる。もう冒頭から、幸せは等量なのか、幸せは集積地と非集積地があるのか、というような感覚を映像でもって見せている。

 「幸せ」に関しては三点くらい気が付いて、

 一点目は、松田マネージャーが「I-1クラブ」時代の島田真夢をDVD(Blu-rayか?)で観てから改めて島田真夢を勧誘に行った際の本心からの語りのシーンで、上記「一つ目」、「沢山の人達を幸せにできる人」に該当する資格を持つ人間は、世界広しといえどもごく少数に限られる、という話。これは才能という意味で限られてるのかもしれないし、もっと行って運命みたいなもので限られてしまっているのかもしれない。『Wake Up, Girls!(WUG)』の七人の中で、島田真夢だけは別格でこの一つ目の有資格者なのね。世界の話として場所にも「幸せ」格差があるかもしれないけれど、人にも「幸せ」贈与レベル格差があるのかもしれないという切なさ。この一人だけ元「I-1クラブ」のセンターで別格の「幸せ」贈与レベルを持ってるのに、島田真夢が中々メンバーに加わらないのがもどかしい、というのが一つの物語のけん引力。

 二点目は、「幸せ」贈与レベルに段階があるというような話で、七瀬佳乃がことの他重要なキャラクターに思えたのでした。つまり、「地方では上位に入るけれど、中央では戦えないレベル」。地方ではけっこう上位陣として芸能活動経歴もありますが、中央に挑戦すると敗れてしまう。この佳乃の物語は劇的だし、共感もしたのです。僕も学生時代のスポーツでは、県大会上位までは行ったけど、全国大会には出られなかった。このくらいの段階に共感する視聴者母数はけっこういると思う。

 三点目はクライマックスの一つで、社長がCDプレス費やイベント会場代もろもろ未納なままバッくれて、メンバー6人の今までの積み重ねが無駄になりかけた場面にて。この場面もね、「積み重ねてきたものが理不尽に不意になる」というシチェーションを、東北の仙台舞台でやるのに意味があるのだと思いましたよ。色んな意味で理不尽に一旦壊れて、今から修復、再構築に向かいたいって場ですからね。

 で、島田真夢が頑張ってた親友の林田藍里が、理不尽にWUG!が解散になりそうで泣いているのを見る。→自分自身が「I-1クラブ」のセンターだった時代の映像を見直して真夢自身が涙を流す。→真夢がWUG!でもう一度アイドルがやりたいと雨の中走っていく……までの一連の流れは、まだ島田真夢の過去に何がありどういう境遇なのかが分からないので(ただ、理不尽な目にあった藍里が泣いてるシーンと過去の自分を重ねるシーンがあることから、何かしら理不尽な大人の事情なのだろうとは思う)、今の段階では感情を追い難いのですが、これはTVシリーズが進むに従って、この一連のシーンの意味合いも分かってくるのだと思う。

 で、そうは言っても今更メンバーに入りたいとかどうなの、と上記の「実力はある、だけど地方どまり」のメンバーのリーダーの佳乃と真夢の会話のシーンが熱かった。だいたい、真夢はWUG!のメンバーは一人一人が自分を幸せにするためにアイドルを目指していると、その点が今の自分と同じだと。冒頭のモノローグの三つ目、「自分自身を幸せにできる人」ですね。それを共有できるから、(「I-1クラブ」ではなく)『Wake Up, Girls!』でアイドルをもう一度やりたいんだ、と、そういうことを語ります。含みとしては、「I-1クラブ」のセンター時代は確かに一つ目、「沢山の人達を幸せにできる」はできていたのだけど、三つ目の「自分自身を幸せにする」は真夢はできていなかったんだみたいなのが感じられますよね。

 そこからラストシーン。ぶっちゃけ社長はお金持って蒸発。お金もないのでこのライブでたぶん解散。そういうシチェーションで最初で最後になりそうな『Wake Up, Girls!』結成ライブの場に選ばれたのは、冬の雪降る日の勾当台公園の小ステージです。松田はライブ会場押さえてみせるとか言ってたけど、ぶっちゃけ簡単に使えます。僕ですら学生時代に立ったことあるような、親しみやすい方向で小さいステージです。お金がないので仕方ありません。

 この、冬のあの季節の仙台の勾当台公園ステージという舞台が上手くてね。あそこは、あの季節光のページェント(地元では有名な並木通りを光源装飾する恒例行事)が近くて、カップルとか家族連れが行き交う、「幸せな人たち」がいる場所が近い場所なんです。

 そこで、これで解散。努力は水泡に帰すし、お金もないから衣装すらなくてバラバラの制服で、「幸せ」じゃない感が満載だけど。七人にもおそらくまだ各々の物語があり、それもまた「幸せ」とはほど遠いのかもしれないけれど(菊間夏夜にいたっては出身地は気仙沼だし、片山実波は石巻の仮設住宅で歌ってた。そして真夢は中央のメディアフィルターを通すと「絆」とか叫ばれてた地方に来たのに母親との描写などからおそらく家族関係が壊れている。)。「自分の幸せ」のために七人、持ち歌も一曲、ライブやってやるよ、というシチェーションなわけです。

 ファイナルシーン、「I-1クラブ」が東京ドームでライブをやってる夜。「幸せ」の集積地と非集積地を感じてしまう夜。地方の、観客も疎らな勾当台公園のステージで一曲のライブを慣行。「タチアガレ!」のライブシーンは良かったよ。グっときたよ。7000枚の手描きのライブシーン(よっぴーさんのTwitterより)。思うに、コンセプトとして、このシーンだけは最新技術でお金かけてばーんみたいな作り方じゃダメなのですよね。意地でも、劣勢のやり方でも生(ライブ)を見せてやるよ、というシーンだと思うので。

 ライブ終了後、一人だけオタクのおっさんがアンコールコールをあげてくれた! という所でこの前日譚は終劇。上述の「幸せ」の贈与に関するテーマからすると、何だか、オッサン一人だけは幸せにできた! という所がスタート地点。『OFFICIAL GUIDE BOOK』によるとこのオッサン大田邦良ってキャラらしいのだけど、重要キャラですね。「I-1クラブ」の古参オタクという設定なんですよ。つまり、この日の「七人のアイドル」、このオッサン一人だけだけど、「幸せ」の贈与に関して、地方の、非常に非幸福的な場の小さいステージで、「I-1クラブ」に勝ったんです。と、そういう始まり。

 声優さんたちもメイン七人はオーディションで選ばれた新人さんたちなので慣れていない感じなのですが、「それはそういうコンセプトだから」と押せる魅力を感じました。「I-1クラブ」の方のメンバーは熟練声優さんで、七人の中でも真夢役の方がやっぱり上手い(と感じた)とか、そこまでやられたら、これは一つのコンセプチュアルアートだと思う。「幸せ」に関して、今はまだ劣勢な側から、それでも始めていくんだという物語なので。

 山本寛監督的には、『らき☆すた』の最終回のダンスの、続きがこのライブシーンだと感じました(重なるキーワードは「制服」。)。「終わらない日常」が一度終わった場所から、新しい「次」を始めよう。

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 たいへん良かったですし、一生に一度くらいの生まれ育った街が舞台のアニメですし、個人的に『コードギアス反逆のルルーシュ(R2)』の時以来、トラックバックセンターの運営やろうと思います。

 TVシリーズも毎話感想記事を立てるつもりですが、とりあえずこの『劇場版「Wake Up, Girls!七人のアイドル」』の感想をブログに書かれた方おられましたら、この記事にトラックバック頂けたら幸いです。『コードギアス』の時は一記事週10000PVとかいってたので、ある程度アクセスアップに貢献できる可能性もあります。

 ブログ自体が今ではもう各種新しいSNSなどに押されて劣勢なメディアという感じですが、だからこそ、この作品で久しぶりにやってみるのに意味があると感じております。

→Blu-rayは2月28日発売



→こちらの『OFFICIAL GUIDE BOOK』、これまでの版権イラストは(たぶん)網羅されてますし、スタッフの方々に声優さんの方々のインタビュー、仙台の聖地に関してまでと盛りだくさんだったのでお勧めです。



→次回:『Wake Up, Girls!(WUG!)』第1話「静かなる始動」の感想へ
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