『仮面ライダー鎧武(ガイム)(公式サイト)』第14話「ヘルヘイムの果実の秘密」の感想です。

 ネタバレ注意です。
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 初瀬、インベス化。

 インベスが元人間というのは、仮面ライダーという作品の根幹(敵と味方が同族)的にも、近年の虚淵玄さん脚本作品的にも予定通りという範囲なのですが、今作は「果実を食べる」という行為が象徴になってるのが、文芸部分の深みだと感じる部分。

 何度か書いてるけれど、劇中での「果実を食べる」は「禁断の果実を食べる」=「人間の進歩や進化への志向、衝動」とリンクさせてる行為だと思うのですよね。過ぎた欲求、進化への意志は人間を怪物化させる、だけでも含意がありますが、『鎧武』ではその欲求は普通の人間でも当たり前に持っている点まで描いてしまってる辺りがシビアです。前話序盤でも、紘汰が履歴書を手書きてめんどくさそうに書いている。現実でも廃止論が根強いように、もっと便利にできるはず、効率的にできるはず、そういう欲求、進歩欲求は、主人公の紘汰ですら当たり前に持っている。だけど、進歩して履歴書全データ化したら、たとえばインク業者とか製紙業者とか、美文字ノウハウ業者とか、その進歩の分、淘汰される存在もまた出てきてしまう。それは、「禁断の果実を食べる」的進歩志向を押し進めて資本による支配を進めてユグドラシルコーポレーションの巨大ビルが建った背後で、戒斗の親の工場が淘汰され、鎮守の森が無くなっていったメカニズムと同じこと。そして、視聴者的にガツンと来るのは、そういう進歩を追った末の淘汰、何も現時点で敵役に見えるユグドラシルコーポレーションだけがやってるわけじゃないだろ、お前もやってきただろ、やってるだろ、ということを突き付けてくる作品なんですね。搾取者側の支配層であるシドに用無しとして始末される初瀬の図が、象徴的に「進歩した強者に淘汰される旧型」の絵なわけですが、これ本当にユグドラシルコーポレーションだけが敵役なのか? と突き詰めると違うだろ、紘汰も、ドヤ顔で「正義」を口にした今話のシドのように、戦国ドライバーで強くなった(進歩した)結果、自分の正義でインベスを、裕也を知らずに殺して(淘汰して)いたじゃないか、と。「禁断の果実を食べる」的衝動、進歩や進化を追った結果、邪魔になった存在や旧式を淘汰するということ、無自覚に、お前も、番組のフォーマット的には正義の味方に見える葛葉紘汰もやってたんだよ、ということを突き付けてしまっている。

 そういうシビアな展開の中、少し希望的に映るのは、「新しい共同体」について萌芽を仕込んでるフシがある辺りでしょうか。「禁断の果実を食べる」的衝動、進歩しよう、進化しようという衝動で進んでいくと、自然な帰結として旧来の共同体は解体されるということが言われています。ざっくりとは、進歩を目指して一人上京すれば、それまでの家族という共同体や地方共同体は壊すことになる、という話です。ユグドラシルコーポレーション的な資本による支配を追っていくと、帰結として人間は労働商品になり、家族や地縁といった共同体からは切断されていってしまうという話ですね。

 で、その動力に代案を示せるような新しい共同体の形はないものだろうかと長い間様々な作品が模索しているわけですが、例えば鎧武とバロンのタッグなんかが、「新しい共同体」の微細な萌芽なのかなと。そう思うと、劇中の仮面ライダーたちが物語冒頭では仲間でも何でもないっていうこの作品の作り方が、上手いなと思うのですよね(紘汰と光実は仲間っぽく始まってるけど、要所要所で本当は本質的な仲間になってない様が挿入されている)。ディケイド以降の平成仮面ライダー二期がそもそも、この「新しい共同体」にまつわる話が多かったです。『W』は家族や街の共同体を扱いましたし、『オーズ』も主人公近辺の疑似共同体ものですし、『フォーゼ』は学園ものの体裁を借りた新型(部活)共同体を扱っておりました。

 で、共同体って、無条件であるっていうより、切実に人間同士の互助として必要だから生まれるものだと思うのですよね。そういう意味で、進歩した側(例えば現在のユグドラシルコーポレーション)に淘汰されそうになったから、弱い側が互助として新しい共同体を作り上げる、というのは良い意味でのリアリティがあるし、ドラマもあると思う。そういう意味で、敵だったやつが仲間に! はよくある展開とも言えるんですけど、こう次回予告とか見るに、紘汰と戒斗が(一時的にしろ)協力し合うまでの過程に、すごい背景の物語があると思うのね。「禁断の果実を食べる」的衝動は誰でも持っていて、人間はみんな怪物なのかもしれないけれど、はい、世界は怪物同士のパワーゲームです、とは割り切りたくない。そういう葛藤、揺れを抱えたまま互助する姿に、現時点ではヒーロー性を感じるのだなぁ。そこまで縁もゆかりもない初瀬を最後まで助けたかった紘汰、というのは、上述の紘汰自身だって怪物と変わらないかもしれない文脈があるからこそ、良かったよ。

仮面ライダー鎧武/ガイム 第一巻 [Blu-ray]
佐野岳
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
2014-02-21




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→次回:仮面ライダー鎧武第15話「ベルトを開発した男」の感想
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