ネタバレ注意です。
九郎丸敗北。
夏凛先輩から告げられたキーワード、「芯がない」は、バックボーンがない、背景の歴史がない、でもあると思いました。剣が好きかどうか問題、剣というのは劇中では神鳴流のことなんですが、おそらく意図して、九郎丸は神鳴流の歴史からは切断された存在として描かれてるのですよね。愛するお母さんお父さんから伝承されたとか、歴史的リソースを継承した上での自分が最新の剣士だとか、そういう文脈、歴史がない。
二層くらいに深い話で、リアルでの我々も、現在自分が本業として使ってる技術や能力の、バックボーンにある歴史や文脈をちゃんと理解し、伝承して使っているかと言えば、心もとない人が多い。僕の語学業界で言えば、ソシュールも時枝誠記も知らないけど、アルクの教材で勉強して語学講師やってます、的な。あるいは、歴史的文脈を自分なりに咀嚼して自分の言葉で語ったりはできないけれど、「艦これ」はやってます、みたいな。そう、現時点の九郎丸の「剣」はまだアプリ的でファッション的なのだと思うのですよ。「僕にはもう他に何もない。この剣以外に」という述懐が悲壮で、それでも、そういうアプリ的ファッション的能力にでもすがって厳しい現実を戦っていくしかない現代人のリアル世相の悲しさをよく反映してると思う。このシーン本当胸が痛いね。そして、それだけでは本当の強者には勝てない所までちゃんと描いてしまっている。
二層目は、じゃあ劇中での「歴史」って何かって話で、これは『UQ HOLDER!』プレストーリーである『ネギま!』であったり、『ネギま!』から『UQ HOLDER!』までの間に何が起こったのか、という辺りです。上手いよね、歴史的なバックボーンと接続されてないからまだ弱い刀太や九郎丸と重なるように、劇中の「歴史」を読者にもまだ明かしてない作劇を取ってるんだもんね。刀太だって「ネギの子孫です」と明示的に歴史と繋がれれば(読者的にも)「負ける気しない」境地に行けるし、九郎丸だって、その神鳴流っていう剣は、同じように亜人的な存在としてアイデンティティに苦悩していた刹那って人が、近衛姓の娘に承認してもらって(やっぱり「近衛」から承認を貰えるか、を『ネギま!』と『UQ HOLDER!』で重ねて描いてるのですよね。ドラマチック。)、その人を守るために使っていた技術なんだ、とか。そういう風に歴史と連続している「自分」に至れたなら、無敵になれるのに、と思うのに、劇中ではまだ全然その段階じゃないし、読者にも、本当の意味で『ネギま!』とどういう風に『UQ HOLDER!』が歴史的連続性があるのか、まだ伏せられていると。第1巻巻末のコーナーでも言及されていたけど、ストレートに連続性があるなら、『ネギま!』ラストの軌道エレベータは麻帆良学園にあるはずなのに、『UQ HOLDER!』のアマノミハシラは東京にあったりと、歴史的連続性に関して「?」が付くようにわざとしてるんだよね。そこが繋がれば、劇中のキャラクター的にも、読者的にも「負ける気しない」感じになれるのに、そこをもどかしくしてストーリーのけん引力にしている。
そんな感じで、歴史的な文脈からも切断され、一族という共同体からも切断され、さらには性的マイノリティーで、という九郎丸だからこそ、刀太との関係を希求している。という所で引き。境遇として絶体絶命だから、互助として新しい共同体を求める、というのは時代性があって良い感じ。今は歴史から切断された者同士(刀太も出生や『ネギま!』との連続性はまだ分からないからね)だとしても、その時点なりに助け合うというのは美しい。
これ、おそらく劇中で「歴史」に関して知っているであろう雪姫、というかエヴァに助けに来て欲しいんだけど、そう思わせる時点で上手い。読者視点からはいきなり作中の時代に幅効かせている資本の論理で動いてる民間軍事会社に、『ネギま!』からの歴史的連続性が(きっと)ある面々が負けるというのは、やっぱり悔しいので。
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