去年(2013年)の小説ベスト記事内に書いていた、米澤穂信『氷菓』感想のサルベージ記事です。
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 まず、アニメの京都アニメーションの映像も圧巻だったのですが、原作小説は原作小説で、テキストの隅々まで「行き届いてる」感じが、テキスト作品単体でも傑作だと感じました。選んでる言葉の数々、その組み合わせ、総体としては「文体」が美しい。ここで「俊英」という言葉を使うか、とかそういう所に感動。大オチも「言葉」に精通してる者なりのものですしね。

 ストーリーがまたじわじわ奥にくる感じでね。千反田さんが33年前の関谷純の出来事を探ること、それに奉太郎が手を貸すこと、現代のファッションな価値観からしたら、意味なんてないんですよ。金、恋愛、ダイエット(笑)、何が手に入るわけでもない。

 ただ、受験だ仕事だ子育てだ介護だと謀殺されがちな昨今だからこそ、貴重な自分たちの時間の大部分を使って、世間的には何の価値はなくても、おそらく自分の実存と関わる謎を探る……という「あり方」そのものがもう美しい。


 全ては主観性を失って、歴史的遠近法の彼方で古典になっていく。

 いつの日か、現在の私たちも、未来の誰かの古典になるのだろう。



 伯父、関谷純の真実に到達した時に、千反田さんは一筋の涙を流す。その涙が、資本世界のファッションとも効率性とも異相を異にしつつ、でも本人にとってはやっと到達した大事な涙で、そういうことがあっても、やはりイイ。

氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信
角川書店(角川グループパブリッシング)
2001-10-31


氷菓 (角川文庫)
米澤 穂信
KADOKAWA / 角川書店
2012-10-01


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