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 シリーズ構成待田堂子さんによる『Wake, Up Girls!(公式サイト)』の七人の前日譚小説、『小説版 Wake Up, Girls! それぞれの姿』の感想です。

 記事中はネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 メンバー七人の前日譚小説ながら、TVシリーズ最終回後の時間軸から各々が過去を振り返ってるような構成なので、前日譚であり、劇場版〜TVシリーズの別視点小説であり、TVシリーズ最終回のアフターストーリーでもある。そんな小説。


●片山実波「必要とされること」

 実波の心の奥には大事なこととして、昔、磯川のおばあちゃんに貰った「人に"必要"とされるってこと、とっても、大事なことだと思うよ」という言葉がある、というエピソード。

 様々な人が自分の存在意義を考えた震災後の文脈で捉えたい言葉。自分自身の中の動機だけじゃなくて、誰かに必要だと言って貰えるからもう一度進める、というのは分かる。石巻の仮設住宅のお年寄り達に実波の明るさが必要だったこと、丹下社長にWUG!のために実波が必要だと言われたこと、そして、劇場版ラストに大田さんがアンコールを叫んでくれた時、などなどにこの「誰かに必要とされる」ということがリンクして描かれます。

 大田さんのアンコールが重要な意味を持つ、というのは熱いな。藍里視点とかだと、WUG!を続けていけるかもしれないという「途切れない」という意味で届いたアンコールだったし(コミックス版がこの描き方が顕著)、実波視点からすると、「必要としてくれた」という意味で届いたアンコールだったと。大田さんただのオッサンなんですが、ただのオッサンから貰ったアンコールが重要な意味を持つこともあるというのは熱い。


●岡本未夕「お姫様になるために」

 未夕の子供の頃から持っていたお姫様願望と、現実の(特に経済的な)厳しさなどが明らかになるエピソード。震災で自宅マンションが被害を受けたために、高校に入ってからは家の家計の手助けにバイト三昧。おそらくは苦しかった頃に、「I-1クラブ(=未夕のお姫様)」が東北にライブに来てくれていたという述懐があり、未夕にとって「お姫様=アイドル」はかなり重い意味があるような感じに。

 WUG!のオーディションの時は『ファッションセンターしまくら』でファッションショーして着ていく服を決めたという記述もあり、これも『しまむら』なのだとしたら、そんなに若者向けの服があるお店とは言えず(どちらかというと年配の方向けのお店のイメージ)、経済的に駅方面とか一番町の服屋で買ったりはできない子なんだと、涙。津波被害まではなくても、自宅被害で経済的に困窮してる世帯は多数なので、分かる。

 それでも、劇場版〜TVシリーズの物語を経て、WUG!として今度は誰かを元気にできる、昔信じたお姫様を自分で体現していくんだ、という所まで。この子天使だな。今回の小説版のバックボーン補強で、一番応援したい気持ちが増したかもしれない。


●林田藍里「私のアイドル」

 WUG!ファンとしては気になっていた人も多いであろう、藍里と真夢の出会いを本当に描いてくれたエピソード。喋るようになったきっかけは熊谷屋のお菓子。これは、リアル熊谷屋のお菓子にも、「縁」みたいなブランドが付加される……。

 真夢がもう一度アイドルをやろうと思ったきっかけが藍里なのは劇場版やTVシリーズ本編でかなり直に描写されているけれど、その流れの藍里視点も。とにかく真夢が気になって、最初は自分のことよりも真夢にもう一度アイドルやってほしくてアイドルどうこうと言い出していた感じ。音楽の授業とか、何気ない所から、真夢は本当は、本質的に歌とかダンスが好きなんじゃ、というのを藍里見抜いてるんですね。だとしたら、そこに自分の本質を押し殺して苦しそうな人がいたら、解放してあげたいと思った、とかだったら、藍里×真夢の方向で熱い。

 藍里本人の物語としてはやっぱりTVシリーズ第6話&第7話が大きくて、自分がただのWUG!ファンになっていたのを早坂さんから指摘されて、それではダメだとWUG!と写っていた写真を取り下げる→でもそうしたら、自分はもうWUG!には必要じゃない気がしてきた→アイデンティティを喪失していた所に、真夢と佳乃が、藍里が必要だと言いにきてくれた……という流れなんですね。一種の再契約の物語。自分がファン状態だったWUG!との仮契約段階から、真夢と佳乃が来て本当に必要だと言ってくれた後の、WUG!との一ステップ進んだ本契約……までの物語。普通の子が、何かに本気にコミットするきっかけ、瞬間というものを上手く切り取っていたと思います。


●七瀬佳乃「繰り返される落胆」

 "また"だ……。
 いつも、うまくいきそうになる直前で梯子が外れて、私は奈落の底に突き落とされる。


 佳乃の人生観が滲み出ていた一文。

 日本ガールズコレクションに落選した時、WUG!の活動に打ち込み始めた頃に、丹下社長の持ち逃げで全部がダメになりそうになった時。などなどと、上手く行きそうな所から突き落とされるので、次第に虚無的になっていく……という心情。

 そういう心情から、TVシリーズ本編の物語を経て、今回の小説では直接描写されてないけれど、やっぱり最終回で、「"また"」足の怪我で梯子が外れて奈落の底に突き落とされそうになった時、みんなが支えてくれたのが嬉しかったんでしょうね。最終的には、今は仲間がいるから、それほど梯子が外れるのが怖くないという境地にまで佳乃が達したのが描かれます。

 佳乃の物語が、一番オーソドックスに精神に不安を抱えた孤高の人が、仲間パワーに目覚めるまでの話という感じ。『プリキュア』的というか。

 私、一人じゃなくてよかったな……。

 やはり、梯子が外れて奈落に落ちるという比喩からも、それを乗り越え得るものとしての一人ではないという話からも、震災の文脈にも写像して捉えられるとも思う、佳乃物語でありました。


●菊間夏夜「ようやく見つけた目標」

 震災以降夏夜が抱えてきた心の奥底にあるものが、"苛立ち"という言葉で表現されます。これは、具体的な出来事を指摘されないだけに、よく分かる。視聴者&読者にもこの"苛立ち"に似た感情を抱えて三年間生きてきた人もいるであろうわけで。

 幼馴染や街を失った喪失感なのかもしれないし、一方で、そんな街を出てきて仙台でバイト生活の私って何なの、というような心情なのかもしれない。そういう"苛立ち"があったので、当初はWUG!のメンバーもけっこうシニカルに見ていたのが描かれます。ただし、実波は最初から「カワイイ」。

 第9話「ここで生きる」(感想)は本当名話で、真夢視点からの浄化を描いていたと思うのだけれど、夏夜視点からしても、あの日に気仙沼のあのベンチで、誰かに自分のことを話すのが必要だった、というエピソード。それぞれが重い荷物を背負ってるWUG!メンバーの中で、メンバーの荷物はみんなで持とうという意識に達したのが、この第9話のエピソード、という切り取り方は綺麗。ちょっぴり、第9話のアフターパート(帰りのバス)も描かれています。

 三年経ったから、そろそろ一歩また歩みはじめよう、というこの第9話は個人的な感覚ともシンクロして、とても好き。


●久海菜々美「自分の進む道」

 気仙沼で菜々美が光塚の応募要項を破り捨てるまでの心理的変遷が、菜々美視点にて描かれます。TVシリーズは、どうしても真夢と夏夜に視点があたってた部分ですからね。

 幼少時に光塚の暁彗さんから、トップになるには、単純なスキルはもちろんだけれど「表現力」ということを言われていて、それがWUG!での経験も無意味じゃない、という展開になっていくバックボーンにもなってるんですね。単純に光塚用のスキル一本を練習し続けるんじゃなくて、色々な実際の経験の中からしか「表現力」は身に付かないと。

 第3話でホヤを「気持ち悪い」と言ってしまった自分のミスを菜々美けっこう気にしていて、また実波の「うんめぇにゃ〜」をこれぞ表現力とリスペクトしてるのは結構面白かった。光塚目指して一本道爆走という生き方とは少し異相をズラして、でも何か豊かなものを獲得していく……という過程。

 光塚だけじゃなくて、WUG!も大事だ、という気持ちに至るまでは、結構色々あって、本小説では、けっこう第6話・第7話の藍里関係のイベントが菜々美にとって重要だったみたいに描かれています。むすび丸ゲットミッションコンプリートの時とか、本当嬉しかったらしい。確かに、一歩引いていたはずだったのだけど、もう巻き込まれて当事者になっていた感が上手く出ていたイベントだったかもしれない。

 菜々美は単独個別回がなかったこともあり、是非ぜひ、WUG!にも打ち込んでただの光塚一辺倒の人とは違う謎ステージにいる存在として、何をやっていくのか、続編で描いて欲しい。


●島田真夢「人を幸せにするには」

 心に傷を負った真夢の再生の物語、という『Wake Up, Girls!』という作品の核心の一つ(もう一つはその物語とリンクする、場所としての東北の再生の物語)を、真夢視点から改めて、という感じ。

 少しずつ、WUG!のメンバーから受け取るものを受け取って、真夢の心が回復してゆく……という構成なんですが、それが分かりやすく真夢視点から描いてある小説版、という感じ。きっかけをくれたのは藍里だし、未夕のステージから受け取ったものがあるし、実波がライブ会場に来た時に気づいたことがあるし……と積み重なって行って、一つの区切りとしては第9話の気仙沼で夏夜に救われる。

 「自分を幸せにできていない」状態からスタートした真夢の物語が、WUG!のメンバー達とのエピソードを通して、徐々に幸せのあり方を回復していって、最終回で、


 「自分が幸せじゃなければ、だれも幸せにできないってこと。だから今の私なら、もしかしたら誰かを幸せにできるんじゃないかって思う」(島田真夢)


 という所まで辿り着けた物語、だった感じ。

 小説版は少しエピローグが追加されていて、『ビジュゥ』にて真夢が「ねぇ、アイドルって、なんだと思う?」をWUG!メンバーに語りかける場面も。メンバーそれぞれの答えは、それぞれの物語が凝縮されている感じ(また、特に統一見解にまとまらないのは、「I-1クラブ」とは違う雑多なWUG!っぽくて良い。)。

 ラストはエピローグとして、第1話冒頭と重なるように、青葉神社に初詣に行くシーンにて終劇で、この小説版は小説版で、一区切りのラストエピソードとして完結感がある感じ。

 一方で、作中時間軸は2015年に入っているので、自然と続編に期待が高まります。みんな、Blu-ray買ったりして応援しよう。

→Blu-ray第2巻は5月16日発売

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