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 アニメ『ハナヤマタ(公式サイトニコニコチャンネル)』第11話「スマイル・イズ・フラワー」の感想です。仙台にて地方遅れ視聴中。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 引き続きアフター『けいおん!(!!)』な文脈を感じながら視聴中(シリーズ構成の方が同じ吉田玲子さん)。

 『けいおん!(!!)』よろしく、「共同体はいずれ壊れる」問題も扱ってると思われる本作。

 共同体が壊れる原因は、『けいおん!』大学生編の感想とかで書いてましたが、一番はやっぱり(特に個人や独力による)「進歩志向」です。より先に、より強くという志向だけを突き進めていけば、ついてこられない人たちは置いて行くことになる。「成功」を求めて上京すれば、それは家族共同体や地域共同体を壊すことと表裏一体であるとか、そういう話です。

 シリーズ構成の方が同じという本作の文脈とは別に、この主題を扱った作品としては制作会社が同じという文脈で、『けいおん!(!!)』と同じ京都アニメーション作品の『Free!』がありました。『Free!』でも共同体が壊れたきっかけは、凛が上昇志向・進歩志向を追って、一人海外留学してより先に、より上へを追って行ったからだ、という描き方をしておりました。その結果、「子供の頃のスイミングスクール仲間」という共同体は壊れた、という所から始まるのが『Free!』という作品。詳しくは、第一期最終回の感想に書いていたりします。↓


Free!/感想/第7話「決戦のスタイルワン!」〜第12話(最終回)「遥かなるフリー!」


 で、『ハナヤマタ』でも、特にハナのお母さんが進歩志向・上昇志向を追って、会社でのキャリアを優先した結果、離婚して家族共同体を壊してしまっている、というのが描かれています。

 この辺りの話はアメリカでは度々Hotトピックになる事柄で、近年だとアン・マリー・スローターの論文「女性は仕事と家庭を両立できない」が2012年頃に話題になったりしましたね。

 日本国内で紹介した「クーリエ・ジャポン」さんの記事はこちら

 ANNE-MARIE SLAUGHTER本人が反響についてまとめてる記事はこちら(英文です)

 とにかく個人としての進歩とか成功を追うと、共同体、特に家族共同体が崩壊していくというのは近年の根深き苦悩であって、そういう意味では『ハナヤマタ』のハナの家庭の環境も、リアルの時代性を反映してる描写だと言えます。

 アン・マリー・スローターの論文まで持ち出さなくても、「共同体が壊れていくツラさ」というのは一連の文脈の創作作品でも十全に視聴者に共感を呼び起こすように描かれていて、『けいおん!(!!)』なら終盤の「『放課後ティータイム』という共同体も学校の『卒業』と共に崩壊するのでは?」という物語の焦点は負荷になりますし、『Free!』だって、幼い頃のスイミングスクールの共同体が壊れてる現状、凛と岩鳶メンバーとの不和は、やはり悲しいパートとして映ります。

 もちろん、『ハナヤマタ』作中でも十分に描いていて、それこそ擬似「放課後ティータイム」的に描かれていたヤヤが所属していたバンド「ニードクールクオリティ」の共同体が壊れた時のヤヤの苦しさ(第7話感想)。真智と沙里の姉妹が不和だった、つまり家族共同体が壊れていた時の辛さ(第9話)で描いています。

 それゆえに、家族共同体が壊れていたハナの本心ではあったであろう悲しさや、お母さんがそれを再生しようと言ってくれた時の幸せも、十全に分かるように描かれています。

 そして、だからこそ最後の課題として、「家族共同体の方を再生してしまうと、趣味共同体(「よさこい部」)の方が壊れてしまう」というラストストーリーが本作では描かれていると思います。

 そして、このストーリーは、かなり『けいおん!(!!)』アフターを意識してると思います。「やがて終わる(かもしれない)共同体の歌を"一瞬の輝き"として複製記録媒体に封じる」という同じシチェーションが描かれながら、『けいおん!!』の時は「カセットテープ」に録音したのに対して、『ハナヤマタ』では印象的に「iPod(のような最新機器)」に録音されています。これはやっぱり、『けいおん!!』から進んだ2014年の物語として『ハナヤマタ』を描いているというのをそこはかとなく匂わせている描写なのではないかと。

 その流れでいくと、五人の「輝いた」共同体で、一人と別れの時がくる(『けいおん!!』では梓、『ハナヤマタ』ではハナ)、だけど、離れていてもずっとずっと一緒だよ、までは、『けいおん!(!!)』最終回と『ハナヤマタ』第11話までで共通。ゆえに、もう一話最終回が残ってる『ハナヤマタ』では、『けいおん!(!!)』最終回の一歩先、「離れることになっても、本当に再合流できる」が描かれると思われます。

 ここまでの作劇上、最終回でハナが再合流しないのはあり得ないという前提で書いておりますが、僕的には、このテーマは『けいおん!』のコミックス版のアフターストーリー、『けいおん!college(感想)』と『けいおん!highscool(感想)』で描かれるのかと予想しておりました。恩那組に象徴される大学での唯たちの新しい人間関係、「わかばガールズ」という梓の新しい共同体、それぞれに新しい共同体は形成しても、ラストではまた「放課後ティータイム」として、唯・澪・律・紬と梓は再合流できる、そこまで描くのかな、と。

 しかし、コミックス版アフターの二冊分では、再合流が示唆されるシーンはあるものの(梓が唯たちと同じ大学を受けようとしてる描写など)、明確な再合流は描かれませんでした。それゆえに、『ハナヤマタ』の最終回で描かれる(であろう)ハナとなる・多美・ヤヤ・真智の再合流は、「ついにきたか」という感じです。

 闇雲に再合流が描かれるだけじゃなくて、ちゃんとそうなるだけのピースはこれまでの11話に散りばめられていて、一つはずっと感想記事で書いてきましたが、「共同体への二重所属」が一つは『ハナヤマタ』という作品のキーだという描き方ですね。オープニングも「よさこい部」の部室に、習字とかギターとか、それぞれのメンバーの別共同体の象徴アイテムを持ち込んできちゃう、という映像が印象的ですし、なるもヤヤも多美も真智も、自分の中の「自由」な部分の体現として「よさこい部」には所属するのだけど、特に居合の道場とかお蕎麦屋さんとかお家のこととか生徒会とか、それぞれのもう一つの共同体をないがしろにするわけじゃない、というのが印象的に描かれていました。

 加えて、その「共同体への二重所属」を実現する方法としての、「外部とのリンク」という描き方。『けいおん!(!!)』からして、「学校の中だけ」というある意味閉じた「軽音部」という共同体から、活動の場を徐々に外の世界とリンクさせていく作劇だったのですが、それが『ハナヤマタ』はより顕著で、学校内の文脈として「よさこい部」はありながら、積極的に街のお祭りとか、温泉旅館とか、「外の世界」へとリンクしていく様が描かれている。だから今話でも、アメリカに一人帰ろうとするハナとのリンクを繋ぐのは、空港まで送ってくれた店長に、彼に連絡してくれたと思われるサリーちゃん先生と、「部活」の外のリンク・人間関係がキーになっている。

 「リンク」さえちゃんとあれば、共同体の二重所属や、一旦離れても再合流は可能だ、というのは真実性があると思います。今はスマートフォンにSNSに対応地域は全世界という2014年、海外に一旦離れたからそれで共同体は終わりというのももう一昔前の感覚で、確かにリンクが本物なら、再合流とか、できるはず。この辺りは、『けいおん!!』の劇場版で海外とのリンクを描き、「外の世界でも演奏(に象徴される仲間との輝いた時間)は可能」という仕込みを描いていたのが、『ハナヤマタ』で回収された感覚も感じます。 「私は、誰かと繋がっていたいって思っちゃうんです。そんなに強い人間じゃないから」と、番組開始前のPVから印象的だったハナの作中キー台詞。11話観てきた今だと、良い意味でそういう他者との繋がりを求める人間の弱さを肯定したい、という作中是だと分かりますが、その「他者との繋がり=共同体」を途切れさせないための処方箋も、しっかりと作中に盛り込んでくれていた作品だと思います。

 『ハナヤマタ』のキーワードは「よさこい」にかけた「自由」。上記のような、進歩志向的な世の中の動力とか、場所が限定されてるんだから離れたらもう再合流できないよという圧力とか、そういう様々な抑圧を抜けて、最終回ではハナ・なる・ヤヤ・真智・多美が世にある数多(アマタ)の己の本質的な色を是とするごとく、再合流? できるよ「自由」なんだからと踊ってみせるとなりそう。

 最終回の題は「ハナヤマタ」(今更だけど、五人の名前の頭文字と、"それぞれの花を咲かせる"と"数多(アマタ)"をかけていると思われる)。今年出会えた良い作品でした。

→Blu-ray

ハナヤマタ1 [初回生産限定盤][Blu-ray]
上田麗奈
エイベックス・ピクチャーズ
2014-09-26


→コミックスKndle電子書籍版(9月23日現在第1巻半額)



→前回:『ハナヤマタ』第10話「オンセン・ガッシュク」の感想へ
→次回:『ハナヤマタ』第12話(最終回)「ハナヤマタ」の感想へ
→コラム:「Vivid性を取り戻すために2014年型作品全弾装填」へ
『Wake Up, Girls!』の感想へ
『けいおん!(!!)』の感想へ