筒井大志先生(ブログTwitter)のアイドル漫画『IDOROLL(アイドロール)』コミックス第1巻の感想です。

 今年一推しの作品です。第1話はお試し的にこちらからWEBでも読めます。

 そして、現在(2014年11月20日時点)「ニコニコ静画」では3日間連続で1話ずつ公開中。
 ◇◇◇

(感想)

 一乃、琴弾、ヨシ君の今巻までのメイン三人。

 コミックスで再読して気づいたのは、一乃とヨシ君に関しては、一乃の「ギター」と、ヨシ君の「以前推していたアイドルのバッジ」が、「一度破綻したけど捨てきれない"大切なもの"」を象徴しているアイテムとして重なって描かれてるのか。

 一乃は「ステージの上で輝きたい」という夢を一度失ったけれど、ロックバンドのライブからアイドルのステージへと形を変えて、まだその"芯"のようなものを捨てきれずにいる。それは、以前人生をかけて推していたアイドルが熱愛・妊娠発覚で解雇されて、喪失を経験したヨシ君が、未だに(推しメンは変わるかもしれないけれど)アイドルを追うという"芯"を止められないのと同じ類の志向性だと。

 一方で、一乃とことびんは、以前いた場所では「他人からの承認が貰えなかった者」同士。一乃は組んでたロックバンドの中ではより優れたギタリストに代替される形で「切られ」、その場所にいてはダメだと突きつけられた。ことびんは、学校ではイジメを受けて、その場所にいてはダメだと突きつけられた。そんな、居場所を、自分がそこにいてもイイよということを否定された者同士が、地下アイドルのステージという場で、「再生」を模索する話でもある。

 クライマックスの第五話は何度読んでも泣けるのですが、ことびんがイジメられていた頃のトラウマがフラッシュバックしてしまってステージを続けられなくなってしまう。なのだけど、一乃が天分を開花させてステージを続行。その瞬間を目撃して魂を撃たれたヨシ君が、一乃を推すと決める。一乃とことびんの、「他人から承認が貰えなかった」、「そこにいてはダメだ」と突きつけられたというトラウマを、ヨシ君からの応援という承認が救済してるシーンだし。一方で、一度破綻したけれど、大切に思い続けていた気持ちが、「ステージの続行」という展開にかかって、一乃とヨシ君でも「再生」されるという、一度失ってもまだ「続けていくこと」が描かれるシーンでもある。ヨシ君のリフトケチャのシーンは絵的にはギャグなんだけど、そういう物語のエッセンスが凝縮されてるシーンなので大変に泣けるのです。

 リアルでも、会社からリストラされたみたいな話から、もっと大変なことまで、何かと普通に生きてるだけで個人が「破綻」を経験する昨今。壊れて、そこにいてはダメだと排斥されて、それでも何とか生き続けていかないとならないのだけれど、それには破綻した後に一時身をおける何らかの「場」が必要なわけで。この作品ではその「場」の一つを「アイドルの現場」で描いてる感じ。一乃の、前にいた場所では否定された特性(ちんまりしてる、応援したくなる)でも、次の再生のステージでは天分に変わり得るかも、というのも一種の応援メッセージ。破綻自体は避けられない世相だとしても、「大切なこと」を失わずに続けていくことができたなら、少し形は変わっても「再生」は可能なのかもしれない。また、応援者も現れるのかもしれない。そういう、搾取も競争による弱者の淘汰もある濁世はリアルに描きながらも、そういう中に残る一かけらの善性みたいなものを、しっかりした構成と可愛い絵柄で描いている作品。

 物語の続きが描かれるかは第1巻の売り上げ次第とのこと。応援。

→今年の一推し