ネタバレ注意です。
輝いていた学生時代のようにはいかない過酷な大人の現実の中で、傷ついてるというか煮詰まってる人がいて、表は絵麻なんだけど、裏はあおいのお姉ちゃん、というお話。
それこそドストエフスキーが近代文明の力学はそういうものだと見破っていたように、そのままだと消費文明は競争の中、人と人とは分断に向かってしまう。実際、野心もあるらしいし、競争社会の中ステップアップも含めて武蔵野アニメ―ションからカナンへ移動する落合、監督の奥さんと別れた話など、「分断」される話は出てくる。それが現実。
という所で、今回の煮詰まってる二人。絵麻もアニメ(というかコンテンツ)大量消費社会の中で、原画マン同士の競争の中食えなくなって分断されていってしまうのかという不安が描かれるし。あおいのお姉さんも、進む社会の中で歯車になって、家族共同体(姉と妹)もバラバラに分断されていってしまうのかという(物語上の)予感がつきまとう。
それを、絵麻は井口先輩や杉江さんの助力で、お姉さんはみどりやあおいとの途切れぬ紐帯で、「でもバラバラに分断されていくだけじゃない」と逆転する話でありました。縦軸(歴史)と横軸(同時代の共同体)と二つあって、まずは「真似ぶ」ところから、歴史の、先輩のリソースを借りていい、それらはこの分断社会の中で敵じゃない、というのも良かったし(だから武蔵野アニメーションは古巣の会社で、社内に貼られてるポスターも70年代、80年代のものが多かったのか……)、お姉さんとあおいの、今はバラバラに暮らしてるけど、あおいは何でお姉ちゃんがやってきたのか分かってるし、分断されるだけじゃない、共有してるものもあるという象徴で方言が出てくるのも良かった。(てか、がんばっぺ! って、五人組の故郷、東北?(記事下部に追記))
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と、エピソード的には絵麻とあおいのお姉ちゃんへの焦点が大きい気はしたのだけど、僕的にはみどり、りーちゃん無双回であった……。誰に感情移入するかは視聴者各々のジャンルで変わると思うのだけど、やっぱり脚本志望のりーちゃんに感情移入してしまった。
「物語が書きたいです!」(今井みどり)
埴谷雄高とか読んで、最初の中編小説を衝動のままに書き上げた二十歳の頃の感覚とか思い出しましたよ。
ドストエフスキーがちゃんと本歌になっていて、
「覚悟と記念と人間の記録っス」(今井みどり)
はりーちゃん、めっちゃドストエフスキーの影響受けてる台詞なのね。特に「人間」の辺りとか。実際、大袈裟に言えば近代文明の力学の中、消耗品になっていく人間に人間の本来性を、みたいなドストエフスキーの話(ざっくりと)に、今話で消耗していたお姉ちゃんとか絵麻は該当してる感じでもあって。絵麻にも、仕事場と家を行き来するだけの生活の他に、井口さんとの散歩の時間、リアル猫と戯れる時間が重要だったけど、あおいのお姉ちゃんにも、みどりとの散在の時間が、人間性を回復するために必要だったんだよ。その上でもう一度、みんなでアニメーション作ろうって言うりーちゃん。世の中の分断の力学をそのまま受け入れないで、何か違うカタチを模索しようって。りーちゃん女神。それを聞いていたお姉さんも人間に戻り。お姉さんの散在旅行は逃避だったかもしれないけれど、確実にみどりの糧にはなっていて、それは未来に描かれるみどりの大作(予定)に間違いなく生きている。消耗品として効率性を追求していくだけの時間以外も、絶対に意味がある。
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ラストの「まんず、がんばっぺ」で思いついたこと追記。Twitterの投稿より。
「がんばっぺ」の方言の分布(北関東から東北)、第1話の学生時代の「へぇ東京は今日36℃だって」「こっちはまだましスか」の会話より、五人組の故郷は東京より北で北関東から東北と推測が可能。
『えくそだすっ!』は二年半後の秋アニメ(同時開始が『Gコレ(Gレコ)』や『ふぁいと(Fate)』)なので、現在編は2014年秋。逆算するとあおい、絵麻、しずかの高校卒業は2012年3月。
となると五人組が『神仏混淆七福陣』を制作したのは、2011年の夏〜秋。震災の年の北関東〜東北で。あおいの原点アニメが『山ハリネズミ アンデスチャッキー』で、第2話冒頭で倒れる瀬川さんと倒れるチャッキーを重ねる姿が入るのは何か関係があるのか。
●参考:『SHIROBAKO』第4〜6話に登場する元ネタ解説/やまなしなひび−Diary SIDE−
どこまで明示的に描くかは不明ですが、こういう状況も加味すると、あおいのお姉さんの疲弊やもう二億八千万勧誘しなきゃならない(おそらく地方の)銀行、絵麻の困窮してるであろう家庭環境にもまた違う意味合いが。
いずれにせよ、お姉さんとの話が出てきたことで、「分断」の力学に対してただバラバラになるだけではなくて別解を、という話は、地方と東京の話も入ってきたことに。そして、その「地方」は北関東〜東北の可能性が高く、震災を契機に色々と分断を経験した地域である、ということなのだった。
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→あおい&絵麻
→前回:『SHIROBAKO』第7話「ネコでリテイク」の感想へ
→次回:『SHIROBAKO』第9話「何を伝えたかったんだと思う?」の感想へ
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