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 アニメ『ハイスクール・フリート(公式サイト)』第7話「嵐でピンチ!」の感想です。

 ネタバレ注意です。
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 『けいおん!(!!)』〜『たまこまーけっと』〜『ハナヤマタ』ラインの、吉田玲子さんシリーズ構成の「(擬似)共同体」ものテーマの作品と感じる本作。

 今話は特に本作は『たまこまーけっと』からの直系なのだなと感じました。作家性が出てる側というか、ガチ側の吉田玲子さんシリーズ構成作品。

 『たまこまーけっと』は「商店街」という共同体の「日常」の維持のために、たまこ個人の「失った母親への気持ち」は物語の前面には出てこないという構造の作品でした(たまこの失った母親への気持ちが語られるのは『たまこラブストーリー』のラストまで持ち越される)。

 一方で、今作も「晴風」という共同体の「日常」の維持のために、明乃は自身の個人的な気持ちは優先できない(というか、結局独りで助けに行っちゃったりしてるんだけど、葛藤を抱えている。)という構造になっていて、これはもう『たまこまーけっと』と『ハイスクール・フリート』は基本的な構造が重なります。

 その上で、本作では今回の第7話時点で明乃が「両親を失った時の気持ち」を仲間に打ち明けられるという展開に。ここはちょっと感動でしたよ。『たまこまーけっと』では、たまこはみどりにもかんなにも(物語の前面では)打ち明けられなかったのに。明乃の語れなかった内面の不安・脅えをましろさんとミーちゃんが聞いてくれてるこのシーンは良い。

 『たまこまーけっと』は明らかにリアルで起こった東日本大震災を受けて作られた作品で、『けいおん!(!!)』で「輝いた日常」を描いた吉田玲子さんは、その後「無条件の日常」というものを描かなくなりました。たまこが抱えている『(お母さんが亡くなった日に)商店街に人がいなくなった風景』というのは「日常」が失われた震災を連想させる位置づけですし、「失ったお母さんへの気持ちを他者に話すことができない」というのもリアルの震災で家族を失った方を念頭に置いていると思いますし、「それでも『日常』を守るために奮闘しなきゃならない」というのは、2011年以降多くの人達が感じていた感情です。

 2013年の『たまこまーけっと』ではそういう描き方をして、2016年の『ハイスクール・フリート』では、ようやっと明乃(に重ねられる家族を失った人たち)がその時の気持ちを他者に話すことができるようになった段階を描いているのだと思うのです。もう、あの時私がすぐに飛びこまなかったから……と、「どこかで生き残ってしまった方も自責の念を抱えて生きている」というのも、リアルで生き残った方が抱えてる問題として取り上げられているのは様々な報道の通りです。

 その上で、今話では視点を「(震災でそこまで被害を受けなかった)一般視聴者=ましろ」に同化させるというテクニカルな脚本を試みていると思います。幼少時に両親を失う破綻を経験している(おそらく震災孤児の比喩になっている。ちょうど五年前くらいの出来事として描かれている感じ)明乃の気持ちを、一般視聴者=ましろ(バラバラに暮らしていて普段はそこまで大事さを意識しないけれど家族がいる)が聴く……というシチェーションです。

 その上で、ましろが実際に危機を体験し(今話の「嵐」もおそらく状況的な「震災」の比喩)、ブルーマーメイドに救助されるという展開を描く。破綻を経験してブルーマーメイドに助けられた明乃の気持ちに、少しだけましろは近づけるという構造になっています。

 今話のブルーマーメイドの登場は素で観てると明らかに唐突なのですが、「(震災でそこまで被害を受けなかった)一般視聴者=ましろ」に同化させる意図で作劇されてると踏まえると、そのいきなり感も演出だと感じるのですね。本当に「ピンチ」の時に思いがけず、いきなり現れて助けてくれた人がいた……という経験・視点の疑似体験になっている。

 というわけで、言ってしまうといまさらですが、本作のブルーマーメイドはリアルだと自衛隊の比喩なんだろうなぁと。五年前に震災を体験して自衛隊に助けられた子が背伸びして自衛隊を目指すみたいな物語構造で、失った「日常」=「家族」を守るために葛藤しながらも頑張る話だと。

 個人的には、2016年に「日常」を扱おうと思うとこういう方向になるというのはとても分かりつつ(今作はほとんど、水着パートのような『けいおん!(!!)』的「日常」描写が「ピンチ」で維持できなくなりかけ、みんなで「ピンチ」に対応する……という作劇になってる)、いつか吉田玲子さんにはまた『けいおん!(!!)』みたいなただあるだけで祝福を見つけられるような「日常」作品を描いて貰える世の中になっていったらいいなと思ったりです。

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→前回:『ハイスクール・フリート』第6話「機雷でピンチ!」の感想(ネタバレ注意)へ
→次回:『ハイスクール・フリート』第8話「比叡でピンチ!」の感想へ
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【関連リンク1:当ブログの吉田玲子さんシリーズ構成・脚本作品の感想】

『けいおん!』と『ハナヤマタ』で重ねられている演出とその意図について
『けいおん!!』最終回の感想はこちら
『SHIROBAKO』(シリーズ構成ではなく同テーマのキー話の脚本)の感想へ
『けいおん!(!!)』シリーズ構成の吉田玲子さん脚本による「バッドエンドけいおん!」を浄化する物語〜無彩限のファントム・ワールド第7話の感想(ネタバレ注意)

【関連リンク2:当ブログの2015年アニメーション作品ベスト10記事】

2015年アニメーション作品ベスト10〜共同体から零れ落ちた人間にも、それまでとは違うカタチなりの祝福を(ネタバレ注意)