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ネタバレ注意です。
長年の当ブログの解釈の通り、京都アニメーション作品にはいくつか作品をまたいで受け継がれ・進展しているテーマのようなものがあります。
現在リリースされている作品群の中で、その最も最新のものは映画『聲の形』(公式サイト)で描かれており、この『響け!ユーフォニアム2』は、「その次」の物語である、ということ。↓
参考:映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)
そして、その流れの中でもこの『響け!ユーフォニアム』は「ポニーテール」に象徴性を持たせた「ハルヒ」文脈の作品であるという点は、当ブログのこちらの記事を。↓
→[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)
ここまでを前提としつつ。
◇◇◇
傘木希美さんが「ポニーテール」なのが、第二期の広報が始まってキャラクターイラストが公開された頃から気になっておりました。
原作が未読なので、原作小説からポニーテール描写があるのか(映画『聲の形』パターン)、アニメ版からの変更(『響け!ユーフォニアム』第一期パターン)なのかは分かりませんが、どちらにしろ、やはりこのキャラクターも「ハルヒ」文脈に乗せて解釈できると思います。
中学時代は燦然と輝く吹奏楽部のエースでありながら、コンクールで敗北を喫して一度その「輝き」を失ってしまった人……ということで、「敗北して『特別』性を剥奪されたハルヒ」というポジションなのだと思います。彼女はコンクールで敗北した時に、自分は4万9999人側だった、と思い知らされてしまったのです。それは、今は勝ち抜けているので何とか「特別」を保っているけれど、いずれ麗奈にも起こり得る、未来麗奈の先行バッドエンドとも捉えられます。
『涼宮ハルヒの憂鬱』のハルヒの方は、高校に入ってからキョンと出会い、「SOS団」という共同体に救われるのですが、希美さんは救いになるかもしれない共同体、(去年の)北宇治高校吹奏楽部でも救われなくて辞めてしまっていた、というポジションの人だという感じです(キョンにあたる人、恋愛方面での救いも今の所なさそう)。
やっぱりこの第二期も、京都アニメーションが後続作品でずっとやっている、「バッドエンドハルヒを救う物語」っぽいのでした。(『境界の彼方』の時はバッドエンド長門ね)
希美さんからハルヒ的「特別」性を奪ったのは、端的には「競争原理」です。これも、『Free!第一期』とかを始め、ずっと京都アニメーション作品が追ってる問題意識ですね。
参考:『Free!』(第一期)最終回の感想
もう、鎧塚先輩の、
「コンクールって、好き?」(鎧塚みぞれ)
から始まる、鎧塚先輩と久美子との、「しかたがない」「沢山の人が悲しむのに?」の会話のシーンは、かなり直球で「競争原理」の是非を(視聴者にも)投げかけているシーンです。
本作的には、ダイレクトに競争原理に基づいた「椅子(コンクールに出られる枠)取りゲーム」にかけられている箇所ですね。
希美さんは中学時代にコンクールという「椅子取りゲーム」に敗れて「特別」性を失って傷つきましたが、高校に入ってまだ頑張ろうと思いました。しかし、そこでも「椅子取りゲーム」に敗北して(自分の方が上手くても、三年生が優先されるという同調化圧力のため)、「共同体(北宇治高校吹奏楽部)」から排斥されて、さらに傷ついています。その上、今、自分が北宇治高校吹奏楽部に戻ると、自分の方がフルートが上手いので、またまた「競争原理」の中でひと悶着起こしてしまいそうな立場の人なのです。
鎧塚さんは、そんな希美さんを助けられなかった自分と、逆に競争に参加しなくても椅子に座れてしまった自分に傷ついています。
「競争原理」の中で、みんな精神的にボロボロです。「輝き」とかほど遠い。リアルの方は自殺率も高い。
そんな二人のセーフティネットとして動いているのは、「フルートが好き」という気持ちと再契約して何とか(自分なりの)「特別」性を保とうとしている希美が、「ユーフォニアムが好き」という気持ちと再契約して何とか実存を保っている(第一期第十二回)自分と重なる久美子と、もともと作中で自分自身も敗北しつつも競争原理に敗北した葉月を抱きしめるポジションだった(番外編:かけだすモナカ)夏紀先輩の、主立っては二人です。
加えて、今回では勝ち続けて本当の「特別」になれるかもしれない麗奈にも、新山聡美さんの登場で恋愛(これも競争原理の一角として本作では描かれています)パートでの敗北が見え隠れしてきました(これは当然、第一期で恋愛で敗北した葉月と重なるようになっている)。前回の感想で書きましたが、麗奈は勝ち続けているうちはイイけど「敗北」した時が終わり……というけっこうな「危うさ」でギリギリ「特別」性を保っているキャラです。久美子は、そんな麗奈に対してもセーフティネットのポジションになっています。男性との恋愛に敗北したとして、百合パートナーとしての私がいるよ! はセーフティネットになってるのかどうかは、ちょっと置いておいて(^_^.でも、そういうポジションです。
第二期第一回の、気持ち悪くなって吐きそうになってる鎧塚先輩というのは、本当、現代の過酷競争原理社会に翻弄されて具合悪くなってる人の象徴みたいな感じで、痛切だったのでした。もう無理。みたいな。
久美子はそんな鎧塚先輩にも優しく接するセーフティネットポジションですが、久美子一人で、希美さん、鎧塚先輩、麗奈と、主立っただけでも三人のセーフティネットになってます。その上、久美子自身も姉の麻美子の問題で傷ついているので、危うい人なのです。競争原理社会の中で零れ落ちた人々を支えようと介護に奔走し、介護疲れで共倒れになる的な状況が示唆されます。加えて、滝先生まで、何か「過去の破綻」を抱えて傷ついてるんでしょ。
「競争原理」の中でみんなボロボロ過ぎる上に、セーフティネットも脆弱過ぎてもうピンチ、という状況です。ザ・北宇治高校吹奏楽部(という共同体)は日本社会の比喩!
それでも、何とかみんな生きていかないといけないという方向にもっていく作品だと思うのですが(僕的には、前回の感想で書いたように、それは曼荼羅(マンダラ)的なものの実現だと思っています。久美子がセーフティネットとして一人で全部背負う、とかではなくね)、そんな流れの中で、あすか先輩と久美子が対峙して今回は引きです。
この引きは盛り上がりましたね。
今回で、希美にダイレクトに「特別」と称させていますし、あすか先輩も「特別」枠なのですよ。第一期の最終回感想では、第二期へのパスであの時点ではまだ物語を始められていない段階だったのでカウントしませんでしたが、第一期最終回ではあすか先輩も「ポニーテール」にしています。
なので、あすか先輩のポジションはまだ書かないでおきますが、第二期の最終回の感想は、たとえば、久美子、麗奈、夏紀先輩の三人に、あすか先輩と希美さんを加えて「五人のポニーテール」に拡張された話になりそうな気はしております。五者五様の「特別」にまつわる物語なのですね。
ちょっとだけ書くと、あすか先輩は「メタ特別」というか。そんなあすか先輩に、競争原理で敗れた人間が見過ごせない、自分もけっこういっぱいいっぱいなのに、せいぜい「ユーフォニアムが好き」とか言ってギリギリ自分なりの「特別」性を保ってるに過ぎない、そんな「分が悪いヒーロー」みたいな久美子が向かい合う、というラストシーンだったわけです。ポニーテールVSポニーテールですね。
曼荼羅化して何とかみんな(排斥された希美さんや、もっと射程を広げれば葵さんも含む)で生きていくためには、あすか先輩と久美子ラインの「線」のようなものを調整しないといけないですからね。この辺り(誰と誰に「線」が、誰と誰に「縁起」があるのか)が、何となく分かるのが凄い作品です。視聴者の論理(ロゴス)面に訴えて象徴的な快感を出すだけじゃなく、直覚とか、物理感覚的なものにまで訴えてくるものがあるという、良くできた一級の骨董みたいな趣もある作品です。
→Blu-ray
→原作の武田綾乃先生の新作小説
→前回:『響け!ユーフォニアム2』第一回「まなつのファンファーレ」の感想へ
→次回:『響け!ユーフォニアム2』第三回「なやめるノクターン」の感想へ
→当ブログの『響け!ユーフォニアム(2)』感想の目次へ
【関連リンク0:2016年秋時点での京都アニメーション文脈(ハルヒ文脈)の最新地点、映画『聲の形』について】
→映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)
【関連リンク1:京都アニメーションがこの十年どういうテーマで作品を繋いできたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事】
→『ハルヒ』放映開始から十年、京都アニメーションがここまで進めた「日常」と「非日常」にまつわる物語〜『無彩限のファントム・ワールド』最終回の感想(ネタバレ注意)
→[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)
→『甘城ブリリアントパーク』第12話の感想はこちら
→[5000ユニークアクセス超え人気記事]『境界の彼方』最終回の感想(少しラストシーンの解釈含む)はこちら
→『中二病でも恋がしたい!』(第一期)最終回の感想はこちら
→『Free!』(第一期)最終回の感想はこちら
→『氷果』最終回の感想はこちら
→『けいおん!!』最終回の感想はこちら
→『涼宮ハルヒの憂鬱』最終回の感想はこちら
【関連リンク2:(特に東日本大震災以降)「共同体を再構築してゆく物語」を日本アニメーションがどう描いてきたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事(主に吉田玲子さんが脚本・シリーズ構成を担当していたもの)
→あの日欠けてしまった人の日常(=マヨネーズ)に私がなるということ〜『ハイスクール・フリート』第11話「大艦巨砲でピンチ!」の感想(ネタバレ注意)
→『けいおん!(!!)』シリーズ構成の吉田玲子さん脚本による「バッドエンドけいおん!」を浄化する物語〜無彩限のファントム・ワールド第7話の感想(ネタバレ注意)
→『SHIROBAKO』(シリーズ構成ではなく同テーマのキー話の脚本)の感想
→『けいおん!』と『ハナヤマタ』で重ねられている演出とその意図について
【関連リンク3:京都アニメーション作品のこれまでの"テーマ的な"連動・変奏の過程がよく分かる『ねざめ堂』さんの記事】
→『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(前編)/ねざめ堂
→『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(後編)