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 アニメ『響け!ユーフォニアム2(公式サイト)』第三回「なやめるノクターン」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 長年の当ブログの解釈の通り、京都アニメーション作品にはいくつか作品をまたいで受け継がれ・進展しているテーマのようなものがあります。

 現在リリースされている作品群の中で、その最も最新のものは映画『聲の形』(公式サイト)で描かれており、この『響け!ユーフォニアム2』は、「その次」の物語である、ということ。↓


参考:映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)


 そして、その流れの中でもこの『響け!ユーフォニアム』は「ポニーテール」に象徴性を持たせた「ハルヒ」文脈の作品であるという点は、当ブログのこちらの記事を。↓


[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)


 ここまでを前提としつつ。

 ◇◇◇

 第一期が競争原理(コンクール的なもので椅子に座れるかどうか)における勝者と敗者の縫合の物語でありました。

 そういう意味で、勝者の麗奈も敗者の夏紀先輩も同じ「特別」の記号のポニーテールになり、ドアの中と外でリンクしている風景、「全体性」がある「場」が出現したのを描いていた第一期最終回は見事でした。

 また、久美子は両サイドの縫合者のポジションで、だから勝者(椅子に座れる)の麗奈のトランペット、敗者(椅子に座れない)の葉月のチューバの中間のユーフォニアムなのだろう、という話を第一期の感想では書いておりました。

 その次の段階として、第二期は競争原理肯定派と否定派の分断によりスポットがあたってきており、久美子は相変わらずその中間で立ち回ってるポジションの主人公として描かれているという印象です。

 競争原理是か非かは、第二期第三回時点で既にけっこう繰り返されている「『コンクール』をどう思うか問答」に現れているわけですが、「あれを言っていいのは勝者だけだと思う」と口にする麗奈は肯定派、もう、前回「沢山の人が悲しむのに?」と口にしていて競争原理の中でボロボロになってる鎧塚先輩は否定派。

 紛らわしい、というか、その紛らわしさこそを、そう単純じゃないよね、というテーマとして描いているのだと思うのですが、勝者側(椅子に座れてる)の麗奈が肯定派なだけじゃなく、敗者側(椅子、というか部にすら入れていない)の希美さんも肯定派なのですね。一方で、椅子に座れてるという意味では勝者側の鎧塚先輩が否定派だったりすると。

 この、「単純な二項対立に分けられない」は、最近の京都アニメーション作品で特に取り上げられている主題でもあります。

 けっこうな、(学問的とかそういう意味で)本格的な話は第二期第一回の感想で書きましたね。「合理における排中律をとりのぞく」という地平を、京都アニメーションは最近表現しようとしているフシがあります。『境界の彼方』とか、その発展系のテーマだった『無彩限のファントム・ワールド』とか、あの作品は、「人間―ファントム」、「現実―虚構」の排中律をとりのぞいて、「全体性」的な世界観が出現したところで閉じられる物語でした。

 そういう意味で、「勝者―敗者」の排中律的に相反する二項対立が出現していた第一期に対して、第二期は「競争原理肯定―競争原理否定」の二項対立が出現している感じです。

 で、あすか先輩は前回の感想のラストでちらっと書いた通り「メタ特別」なポジションなので、最後のユーフォニアムを演奏しているシーンは、あすか先輩は表面的には部の全体のために希美先輩は切るという競争原理的なことをやっているのだけど、既にその境地はそこの二項対立にはない、「全体性」的な世界観にいるポジションの人だと。AともBともいえない、その二項対立に分類されない感じの「音楽」を奏でてるっていうのは、そういう表現なのかと思います。音楽(というかアート的なもの)が、この二項対立的なロゴス(合理)を超えて、排中律をとりのぞいた的な場所へのアクセスを確保してるっていうのは、劇中だけじゃなく、けっこうリアルの学問的・思想的・批評的な感じの世界で言われていることでもあります。

 二項対立を超えてる、排中律をとりのぞく方向に向かってるなと感じるのはもう何点かあって、ざっとでも三つ。

 一つは、コンクールで審査員に評価されて優劣をつけられちゃうのは、(特に負けた側だと)つい自分が被害者のように感じてしまうのだけれど、あすか先輩が同じように多くを生かすために希美さんは切るという決断をしてるのを(視聴者にも)見せて、自分達も加害者、というか、日常的に裁く側に回ってることをも意識させられる構造になっております。競争原理的(コンクール的)世界観における「裁かれる者―裁く者」の二項対立の解消ですね。

 二つ目は、中世古先輩と優子さんの関係で、第一期ではトランペットのソロという競争原理の中の椅子取りゲームで敗者になった中世古先輩を支えるのが優子さん、という構図だったのですが、今話で、去年のエピソードだと、椅子取りゲームから外れそうになっていた(部を辞めそうになっていた)優子さんをむしろ中世古先輩が支えていたという構図になっていた、ということ。(競争原理の中での敗北の際に)「支える者―支えられる者」という二項対立の解消ですね。

 三つ目は、現在の北宇治高校吹奏楽部は、一応勝ち進んでいて競争原理の中では勝者共同体のような気がしますが、敗者・セーフティネット的なものを排斥しているかというと、この北宇治高校吹奏楽部という勝者共同体自体が、破綻を経験した(奥さんとの死別を経験した)ある意味敗者ポジションの滝先生のセーフティネットになっている、というこれまた複雑な構図になってます。「勝者共同体―セーフティネット」の二項対立の解消ですね。

 総すると、気を抜くと二項対立的な世界観に巻き込まれて勝った負けたとどちらかを排斥しようと戦争状態になりがちな世界の中で、「メタ特別」ポジションゆえに既に二項対立の地点にはないあすか先輩と、縫合者ポジションゆえに、二項の両者を行ったり来たりしてる久美子の二人が重要ということになり、やっぱり第二期で焦点があたってるのは久美子とあすか先輩の二人だよな、と。その視点からオープニングを観ると、後半へのトリガーの箇所(いわゆる、モノクロだった映像が彩りに変わる『涼宮ハルヒの憂鬱』第一話冒頭演出)、久美子とあすか先輩が両者とも「ポニーテール」で「ユーフォニアム」を演奏しているというシーンは鳥肌が立ちます。

 最後にプチ知識。「二項対立の地点にはない」とか大仰な言い方で書いておりましたが、この、AかBかに陥って精神の危機に陥いりがちな昨今。このAもBもという状態を、専門用語で「アンビバレント」と言ったりして、精神医学とかの話だと、まずは自分の中にアンビバレントがあるんだということを、そのまま受容すること、というのは、わりとメジャーな精神の危機にある人への処方箋だったりします。そういう風に、一見相反することを抱えちゃうのは、別に人間として普通、というところを意識する、ということ。好き、嫌い、好きだけど嫌い、訳わからない、みたいなのは、まあ、そんなに忌避することじゃなくて、人間ってそういうものだったりなのです。そういう意味では、映画『聲の形』でもその辺りのことやっていたな〜と改めて思い至ったのでした。大げさにいえばトランキライザー(精神安定剤)的というか、心穏やかに生きていくための処方箋感ある京都アニメーション作品だなあ、などと思ったりなのでした。

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→原作の武田綾乃先生の新作小説



→前回:『響け!ユーフォニアム2』第二回「とまどいフルート」の感想へ
→次回:『響け!ユーフォニアム2』第四回「めざめるオーボエ」の感想へ
当ブログの『響け!ユーフォニアム(2)』感想の目次へ

【関連リンク0:2016年秋時点での京都アニメーション文脈(ハルヒ文脈)の最新地点、映画『聲の形』について】

映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)


【関連リンク1:京都アニメーションがこの十年どういうテーマで作品を繋いできたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事】

『ハルヒ』放映開始から十年、京都アニメーションがここまで進めた「日常」と「非日常」にまつわる物語〜『無彩限のファントム・ワールド』最終回の感想(ネタバレ注意)
[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)
『甘城ブリリアントパーク』第12話の感想はこちら
[5000ユニークアクセス超え人気記事]『境界の彼方』最終回の感想(少しラストシーンの解釈含む)はこちら

『中二病でも恋がしたい!』(第一期)最終回の感想はこちら
『Free!』(第一期)最終回の感想はこちら
『氷果』最終回の感想はこちら
『けいおん!!』最終回の感想はこちら
『涼宮ハルヒの憂鬱』最終回の感想はこちら


【関連リンク2:(特に東日本大震災以降)「共同体を再構築してゆく物語」を日本アニメーションがどう描いてきたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事(主に吉田玲子さんが脚本・シリーズ構成を担当していたもの)

あの日欠けてしまった人の日常(=マヨネーズ)に私がなるということ〜『ハイスクール・フリート』第11話「大艦巨砲でピンチ!」の感想(ネタバレ注意)
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『SHIROBAKO』(シリーズ構成ではなく同テーマのキー話の脚本)の感想
『けいおん!』と『ハナヤマタ』で重ねられている演出とその意図について


【関連リンク3:京都アニメーション作品のこれまでの"テーマ的な"連動・変奏の過程がよく分かる『ねざめ堂』さんの記事】

『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(前編)/ねざめ堂
『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(後編)