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 アニメ『響け!ユーフォニアム2(公式サイト)』第六回「あめふりコンダクター」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 長年の当ブログの解釈の通り、京都アニメーション作品にはいくつか作品をまたいで受け継がれ・進展しているテーマのようなものがあります。

 現在リリースされている作品群の中で、その最も最新のものは映画『聲の形』(公式サイト)で描かれており、この『響け!ユーフォニアム2』は、「その次」の物語である、ということ。↓


参考:映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)


 そして、その流れの中でもこの『響け!ユーフォニアム』は「ポニーテール」に象徴性を持たせた「ハルヒ」文脈の作品であるという点は、当ブログのこちらの記事を。↓


[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)


 ここまでを前提としつつ。

 ◇◇◇

 「競争原理」に基づいた(「コンクール」的な)椅子取りゲーム。

 前回ラストの全国大会への切符を手にした北宇治高校吹奏楽部というのは、いわばこの椅子取りゲームに(この時点では)勝った、という展開だったのですが。

 今回はいきなり、負けた側。「競争原理」世界では上手くいかなかった側に焦点があたるお話でありました。

 第一期の最終回(大会で勝利した:椅子取りゲームに勝った)から番外編「かけだすモナカ」(椅子に座れなかった葉月の救済)への流れと同じ感じです。

 「競争原理」世界では上手くいかなかった側は、何重にも描かれているのですが、葉月とか夏紀先輩とか鎧塚先輩とか希美さん辺りはもう物語が一区切りしたとして、あと物語として残ってるのは主には。


・久美子の姉の麻美子(吹奏楽をやめて受験という競争世界に身を投じたけど、今は大学辞めたいと言ってる)
・葵(麻美子リフレインのごとく、吹奏楽部をやめて受験という競争世界へ)
・梓(コンクールという椅子取りゲームに勝てなかった)


 あたりです。

 梓の物語は、原作の武田綾乃先生の新作小説『立華高校マーチングバンドへようこそ』の方でやるのかな、という気がします。

 葵の物語は、今後触れられるかもしれませんが、第二期第一話の花火のシーンで十分かな、という気もします。

 そして、今話から焦点があたってるのは麻美子の物語です。


 で、この麻美子の物語ですが、何重層にも描かれている「壊れた過去の共同体を再構築する物語」に組み込まれていくのかな、と。

 劇中に、「過去の壊れた共同体」が何重にも描かれている、という第一期の感想の頃から触れていた話がありました。


1.大吉山北中学校吹奏楽部(久美子と麗奈)
2.久美子と姉の麻美子
3.去年の北宇治高校吹奏楽部(現二年生)


 が主だったものですが。

 「1」は第一期ラストで再構築されました。

 「3」は第二期第五話までで再構築されました。(それを受けて、今話からOP前半が彩(いろどり)ヴァージョンに)

 で、「2」が今話からだと思うのですが、これ、秀一(久美子の幼馴染)が絡んで再構築に向かうのかな、と。

 今話にて、実は、


4.滝先生と亡くなった滝先生の奥さん


 というレイヤーがあることも明示的になってきました。

 「競争原理」に基づいた(「コンクール」的な)椅子取りゲーム世界、率直なところ新自由主義的なものだけ押していくなら、敗者(滝先生の奥さん)は切り捨てて、より優れた異性で代替すれば良い、ということになるのですが、滝先生は「あなたを想い続けます」が花言葉のイタリアンホワイトを亡くなった奥さんに捧げ続けています。滝先生の奥さんは『甘城ブリリアントパーク』でいう「代わりがいないあなた」なのです。


参考:『甘城ブリリアントパーク』第12話の感想


 この「あなたを想い続けます」要素が、秀一→久美子とも重なるように描かれています。滝先生の気持ちに比べたらまだまだファッションなものかもしれませんが、秀一の気持ちにも貴賤はなく描かれていると思います。

 ああ、葵も久美子の幼馴染なのか。久美子、麻美子、秀一、それに葵まで射程に入って、児童時間の紐帯組の「過去の共同体の再構築」が描かれて、それが滝先生と滝先生の奥さん世代の「過去の共同体の再構築」と重なってゆく感じでしょうか。

 それにしても、滝先生から、亡くなった滝先生の奥さんへも作中で重要となる「特別」のワードがでました。

 「ポニーテール」に象徴される劇中の疑似「ハルヒ」。

 第一期の久美子、麗奈、夏紀先輩だけじゃなく。第二期では希美さん、あすか先輩が加わってるのはこれまで書いてきた通りですが、さらなる一層奥のレイヤーとして、亡くなった滝先生の奥さんも疑似「ハルヒ」なのですね。

 滝先生が疑似キョンで、「白雪姫のキス」的な、「代わりがいないあなた」の関係を、今でもハルヒ(=亡くなった滝先生の奥さん)に向け続けている、と。

 滝先生の奥さんが亡くなった「五年前」は東日本大震災の年でもありますし(今年の作品で、何らかの「過去の破綻」を扱った作品は、「五年前」の設定が多いです。クリエイター達が間接的に表現している箇所なのだと思います)、刊行されている原作小説の『ハルヒ』シリーズでは現時点でラストの作品、『涼宮ハルヒの驚愕』がリリースされてからの年月でもあります。京都アニメーション作品は作品をまたいで(モチーフやテーマで)一連で繋がりつつ、メタフィクション的に表現しているという側面が大きいので、意図していると感じます。

 となると、今では失われてしまった「過去の共同体」というのは、山田尚子さんがシリーズ演出なので、『けいおん!(!!)』の軽音楽部五人組が意識されるとこれまでの感想では書いておりましたが、もうちょっと遡って、『ハルヒ』のSOS団、ということになるでしょうか。

 あの、「ハレ晴レユカイ」だった共同体は、五年前に失われてしまっているのです。京都アニメーション作品としては『たまこまーけっと』から、ということになりますが、2011年以降の京都アニメーション作品は、こうした震災以降失われてしまった「過去の共同体」の再構築、というか、「その次」の共同体の模索……というようなモチーフが組み込まれているものが多いです。

 本作では、それは久美子と麻美子(麻美子が吹奏楽を辞めたのも五年前くらい?)近辺の「過去の共同体」の再構築として描かれていきそうです。

 亡くなった滝先生の奥さん=擬似「ハルヒ」だとすると、奥さんの「全国でも金」という願いは何に相当するのかな。『ハルヒ』、まぎれもなく世界にその名を轟かせたゼロ年代の金字塔のアニメーション作品で、Amazonで一位とかは取ってたのですが。

 ああ、全国クラスでの話だから、『千と千尋の神隠し』(日本の映画興行歴代一位)とか、その辺りまで挑む、ということだったりでしょうか。まさに『ハルヒ』文脈の映画『聲の形』でこの2016年にタイムリーに挑んでるのは、「競争原理と逆の力で逆説的に競争原理に挑む」を、劇中と劇外で、フィクションとリアルを行き来しながらやっていると感じるのでした。

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→前回:『響け!ユーフォニアム2』第五回「きせきのハーモニー」の感想へ
→次回:『響け!ユーフォニアム2』第七回「えきびるコンサート」の感想へ
当ブログの『響け!ユーフォニアム(2)』感想の目次へ

【関連リンク0:2016年秋時点での京都アニメーション文脈(ハルヒ文脈)の最新地点、映画『聲の形』について】

映画『聲の形』の感想〜ポニーテールで気持ちを伝えられなかったハルヒ(=硝子)だとしても生きていくということ(ネタバレ注意)


【関連リンク1:京都アニメーションがこの十年どういうテーマで作品を繋いできたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事】

『ハルヒ』放映開始から十年、京都アニメーションがここまで進めた「日常」と「非日常」にまつわる物語〜『無彩限のファントム・ワールド』最終回の感想(ネタバレ注意)
[5000ユニークアクセス超え人気記事]響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)
『甘城ブリリアントパーク』第12話の感想はこちら
[5000ユニークアクセス超え人気記事]『境界の彼方』最終回の感想(少しラストシーンの解釈含む)はこちら

『中二病でも恋がしたい!』(第一期)最終回の感想はこちら
『Free!』(第一期)最終回の感想はこちら
『氷果』最終回の感想はこちら
『けいおん!!』最終回の感想はこちら
『涼宮ハルヒの憂鬱』最終回の感想はこちら


【関連リンク2:(特に東日本大震災以降)「共同体を再構築してゆく物語」を日本アニメーションがどう描いてきたかに興味がある方向けの手引きとなる、当ブログの関連記事(主に吉田玲子さんが脚本・シリーズ構成を担当していたもの)

あの日欠けてしまった人の日常(=マヨネーズ)に私がなるということ〜『ハイスクール・フリート』第11話「大艦巨砲でピンチ!」の感想(ネタバレ注意)
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【関連リンク3:京都アニメーション作品のこれまでの"テーマ的な"連動・変奏の過程がよく分かる『ねざめ堂』さんの記事】

『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(前編)/ねざめ堂
『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(後編)