想像通りの存在がそこにいた。

「ムッちゃん」

 漆黒の髪を流した、紅の和装の少女。闘いの時に舞う彼女の装束は踊る紅花のように見る者の高揚を誘うが、今宵は夏の気まぐれに訪れた涼しさの賜だろうか、彼女の装いは梅重(うめがさね)といった趣で宵闇と調和しているようにアスミの瞳には映った。陸奥の表情も心持ちいつもより柔らかく、落ち着いた心象を相対する者に抱かせる。

「アスミさんが想いを馳せた天の彼方に、また私もいるのでしょう。それでも全てが一つの方向に定まってしまう前に、もう一度だけ、『縁』を頼りに参りましたよ」
「今は、どっち?」
「さあ、どっちでしょう? 真実大王の能力の『網』はこの地球全てを捕縛しているがゆえ。知られぬよう。三日後の闘いの日まで、『わたし』のことは世界に対して、何事も言葉にして語らぬ方が、良いでしょう」

 もうすぐ最後の闘いが始まる。自分もどうなるかは分からない。この胸の内を言葉にして世界に残しておくとして、聞いてもらえる相手がいるのだとしたら、「こっち」の方の陸奥は馴染む聞き手だな、とアスミは思った。

「お父さんのこと、考えていたの」

 最新・第256節(第253節)「慰霊碑の前で」/「カクヨム」および「小説家になろう」にて7月1日(土)に公開。(小説『非幸福者同盟』)


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 ティザー的に。

 隔週連載で、ラスト二話(/全十三話)を更新中となっております。

 ご覧頂けたら喜びます。

 読めるところをまとめておきますね。↓


小説『非幸福者同盟』/カクヨム

小説『非幸福者同盟』/小説家になろう

小説『非幸福者同盟』イントロダクション&登場人物紹介


 累計43000PV達成も感謝です。
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