相羽です。

 ライトノベル『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦(公式サイト)』第1巻の感想です。

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 以下、ネタバレ注意です。
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 『想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった(感想)』の帯の推薦コメントを細音啓(さざねけい)先生が書いていたので、細音先生の代表作の本書を読んでみようかと手に取ったという、たぶん送り手のプロモーション的に想定していた無標の順番とは逆で興味を持って購入して読了です。

 原作ライトノベル第1巻部分を読了です。

 帝国とネビュリス皇庁、敵味方の陣営に別れてる主人公とヒロイン(どちらも、各陣営の最強戦力級に強い)の物語。

 主人公のイスカとヒロインのアリスリーゼの関係が深まっていくのを描くのにあたって、二人が「中立都市」で何度か会って、「共有体験」を積み重ねていくというパートが描かれます。

 新たに二人で積み重ねるという方向に加えて、もともと共有できるものがあった! という要素も強めに描いています。歌劇の趣味が同じ(泣きポイントが同じ)、食事の趣味が同じ(パスタのくだり)、絵の趣味が同じ(ヴィヴランの絵に関する理解のくだり)。

 一見対立しているという事象面に目がいっても、その奥にあるお互いが持っている「共有体験」にまで辿り着ければ、理解のきっかけが見えてくるというのは、僕なんかは『スイートプリキュア♪(感想:別ブログ)』を思い出しました。

 政治のレイヤー(ここでは対立している)の下にある文化のレイヤーで「共有体験」があるなら、お互いの理解は可能なはずという、リアルの方だと政治的には対立してる国と国でも、今だとポップカルチャーなどを媒介に文化的には相互に理解し合っていけるかもしれない(現在の日本だと、特に漫画、アニメ、ゲームとかですね。)という側面を、希望として強めに描いているという印象です。

 表層的には対立しているレイヤーの下には、深層的に共有できてるレイヤーがある……という構造は他にもみてとれて、作者さんの統制概念(作品に反映されるテーマのようなもの)を感じたりもする部分です。

 具体的には、「帝国」VS「ネビュリス皇庁」という対立のレイヤーの奥に、ざっくりとは「保守」VS「革新」の対立のレイヤーを設置しています。

 イスカとアリスリーゼは、「帝国」VS「ネビュリス皇庁」のレイヤーだと対立してるのですが、「保守」VS「革新」のレイヤーだと、二人とも「革新」よりなのですよね。

 保守だとか革新だとかの言葉も、最近では混乱に混乱を重ねていて丁寧に使っていく必要がありますが、ここでは少なくとも劇中では、戦争を継続したい方が「保守」、もう停戦・和平に持っていきたい方が「革新」とします。

 終盤、始祖・ネビュリス様が目覚めるところで、アリスの母は戦争に利用しようと考え、アリスリーゼは従者の燐(りん)を傷つけられたこともあり、ネビュリスはもう今の時代にはいらないと考える。

 「帝国」VS「ネビュリス皇庁」のレイヤーだとアリスリーゼとアリスの母は同じ側にいるのですが、「保守」VS「革新」のレイヤーだと、アリス母が「保守(戦争の継続)」なのに対して、アリスリーゼは今巻の物語でイスカと交流を重ねてることもあり、「革新(停戦できるものならしたい)」の方にいっていて、むしろイスカと重なる側にある。

 始祖・ネビュリス様に勝つ決め手。

 伝統とか、過去から受け継いだ力って、物語では基本的にポジティブなものとして描かれることが多いと思うのですけど、この作品でそれそのままだと「保守」ってことになっちゃうので、アリスリーゼの巨大な力はネビュリスの血による要因が大きいものの、母に隠れて実験とかしていて、自分なりのオリジナルも研究していたというのが、作品のテーマを上手く昇華していて熱かったです。今の世代が生み出す「プラスアルファ」が大事だ、っていうのがまさにこの作品の向かってる方向という感じです。

 「帝国」のイスカと「ネビュリス皇庁」のアリスリーゼが共同戦線で戦うという歴史上まだ見たことがない風景が実現すると、始祖・ネビュリスをも上回り得るといういったんの希望(和平というまだ実現したことがない未来への希望)が感じられるところで、今巻は幕。

 これ、このままの流れで素朴に進むと想像すると、イスカとアリスリーゼで革命(帝国側は八大使徒、ネビュリス皇庁側はアリスの母親など、現在の戦争継続の「保守」側の打倒)を起こさないといけない気がするのですが、革命は革命で(リアルの歴史とか鑑みるに)血が流れるからなぁ……。

 ストレートな革命みたいな方向とは何か別のベクトルへ進んでいくのか、あるいは停戦・和平とかのフェーズを超えた何か大きい話まで突き抜けていくのか。

 既に十巻を超えていて、かなり長い物語になってきているようですが、面白かったので、久々に続刊含めて長編のライトノベルを楽しみたいと思ったのでした〜。

→原作ライトノベル



→漫画版(コミカライズ)



→アニメは2023年に「Season2」が放映予定



→富士見ファンタジア文庫では『想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった』もおすすめです



『想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった』の感想〜役割交換の共振から起動する楽園の「次」への願い(ネタバレ注意)