相羽です。

 アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女(公式サイト』第1話「魔女と花嫁」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 「無条件の世界」と「条件付きの世界」の対立項の物語です。

 作中で描かれてる対立項としては、


 「スペーシアン」VS「アーシアン」

 「空想(理想)=魔女」VS「現実(経済)」


 とか、色々あるのですが、



 最も核心的な対立項は、この、


 「無条件の世界」VS「条件付きの世界」


 ですね。

 物語冒頭は、ガンダム・エアリアルに搭乗したスレッタ・マーキュリーが、ミオリネ・レンブランを、「無条件で」助ける……というシーンです。

 この時のスレッタには、ミオリネがお金持ちだからとか、彼女と婚約したいからとか、もう何か助ける代わりに「交換」で何が欲しいとか、そういう「条件」はいっさい存在してないわけです。

 人(他者)がピンチだ! 助けよう、それだけ。この「愛」とか「祈り」とかの、一概に言葉にできない領域の尊い気持ちの世界を、まずは「無条件の世界」の領域という言葉で呼んでおきます。

 このスレッタとミオリネの冒頭のシーン時点での、「無条件の世界」の関係が、おそらくこの物語の全ての起点。

 で、学園に到達してからは、この「無条件の世界」とは逆の(対照される)、「条件付きの世界」が殺伐と描かれていきます。

 「決闘」がまさに、「条件付きの世界」の最たる要素ですね。「決闘」に勝つという「条件」を満たしたら、「交換」として、何かを得る。グエル・ジェタークは、「決闘」という「条件」付きで婚約者としてミオリネを獲得した、という、物語冒頭時点では「条件付きの世界」の住人の代表的な人物として描かれています。

 学園パートと並行して描かれていく、「経済」パートも、今のところは「条件付きの世界」側の領域です。デリング・レンブランが、(お金上の)業績という数値の「条件」を満たさなかった会社を切り捨てる……なんてのは、もうモロに「条件付きの世界」の領域の描写ですね。

 先ほど、スレッタ&エアリアルの「無条件の世界」の方は、「言葉にできない」領域と書きましたが、こっちの「条件付きの世界」の方は、数値化できるというのが一つの特徴です(数値に到達しなかったから切る。数値で上回ったから報酬を与える。など。)。言葉にも、それこそ「契約書」みたいな感じで言語化しやすかったりもします。

 ただ、もう、現代人の我々はこの「条件付きの世界」にがんじがらめにされていて、わりと、もうイヤ! となってる人は多いです。学園から脱走しようとしたミオリネの心境ですね。ミオリネの脱走(を試みた)は、父親が敷いたレールからの脱走、グエルという婚約者からの脱走といった意味がありますが、もうちょっと抽象的なレベルでは、この「条件付きの世界」から「無条件の世界」へ向けての脱走衝動です。

 ミオリネ、もう菜園みたいなのまでやってましたからね(笑)。リアルで「条件付きゲーム」の仕事とかで疲れて家庭菜園とか始める人と大体似たような心境ですよ!

 そんな、ミオリネが、出会ってしまうわけです。水星からきた「魔女」という「空想(ファンタジー)」、「無条件の世界」の住人である、スレッタ・マーキュリーと。

 熱い。

 熱すぎる物語です。

 ここで、ざっくりとだけ第1話時点での「無条件の世界」要素と「条件付きの世界」要素の対照を表にしておいてみましょう。


 「無条件の世界」─「条件付きの世界」
 愛、祝福─経済、お金
 母の愛─数値化
 本物の家族の世界観─「決闘」の世界観
 ガンダム・エアリアル─(今話時点での)グエルと彼と「条件付き」の関係を結んでいる取り巻き



 とかとか、ですが。

 グエルが「決闘」で勝ち取ったミオリネとの「婚約」を、「条件付きの世界」の今話時点の最たるものとして描いているのは上手いですね。

 リアルの方だと、「婚活」とかは、「条件付きの世界」感が強いですからね。年収という「条件」! イケメンという「条件」! 高身長という「条件」!

 グエルが今話時点でミオリネを見てる目は、この感じに近いんですよ。「決闘」とかちょっとけれん味あるフォーマットに落とし込まれてるからそんなに気にならないけど、やってること、「条件付け」まみれの婚活おじさんと同じだからね!

 今話のクライマックスは、「条件付きの世界」の住人のグエルが、お前も「条件付きの世界」の住人であれ、とミオリネを「制限」しようとしているという状況設定で……。

 最後の決闘、エアリアルをミオリネが操縦してる間は、力が出せません。ミオリネは、今話時点ではまだ「条件付きの世界」に縛られている「塔の中の姫君」だから。

 「塔の中の姫君」とか、物語論要素の用語に馴染みがないという方は、こちらの本を参考にどうぞです。↓



 ざっくりとは、多くの人が知ってる作品を例にあげると、『カリオストロの城』における、クラリスがミオリネで、ルパンがスレッタだということです。

 ミオリネがエアリアルを操縦しようとしたことに、どちらかというと引っ込み思案な人物としてこれまで描かれていたスレッタが珍しく怒ります。エアリアルは、「無条件の世界」の領域の存在なのに、今はまだ「条件付きの世界」に縛られてるミオリネが、どうこうしようと、エアリアルを「制限」しようとしたから。

 ここで、ミオリネからスレッタにエアリアルのパイロットが交代するところで、爆発する「無条件の世界」ワード。「家族」と「お母さん」です。

 「家族」、デリングとミオリネの親子関係はすっかり「条件付きの世界」に侵食されてしまっている状態ですが、水星には、スレッタ(というかエリィ、エリクト)とお母さんの間には、まだ「無条件の世界」の「家族」関係がある。そんな関係は、もはや「魔女」的な「空想」にしか過ぎないのかもしれないが、ここに、確かにガンダム・エアリアルはある。

 「PROLOGUE」をみると、エアリアルには多分に「お母さん」要素があるのが分かります。


(追記。2022年10月4日/)

 (この感想を書いた後に公式で公開された)小説「ゆりかごの星」を読んだ上での、作中の「母」要素に関する現時点での見解を追記しておきます。



 YOASOBIが歌う主題歌「祝福」 のために、シリーズ構成・脚本の大河内一楼さんが書き下ろした小説「ゆりかごの星」によると、スレッタの母のエルノラはスレッタ(というか、エリィ、エリクト)を復讐に利用しようとしている模様。

 「復讐に利用」は、今回の記事の文脈では明らかに「条件付きの世界」側の要素です。

 でも、言語化不能な「母の愛」のようなものは、「無条件の世界」側の要素として本作で確かに感じられたりもして。

 と、混乱してしまうのですが、スレッタの母エルノラに関しては両方あるというのが現時点での解釈では無難なのかなと。

 前提として、まだ設定を考察し切れていない部分があるのですが、ガンダム・ルブリス→ガンダム・エアリアルの間には、何らかの「継承」があるっぽいですよね?

 技術的に継承されてるのはほぼ確かですが、何らかの「コア」のようなものまで継承されてる可能性もある。

 ガンダム・ルブリス、「レイヤー33」の前までは母のエルノラもアクセスができていたわけです(「PROLOGUE」劇中では「コールバックを受け取る」という表現になっている。)。

 「レイヤー33」以降のおそらく「ゆりかごの星」でエアリアルが持ってる「意思」の領域からは、スレッタ(エリィ、エリクト)との交流でできているけれど、その前までは母のエルノラの要素でルブリス(=エアリアル)はできているわけです。それは、復讐に走る前の「母」のエルノラの要素がエアリアルには入ってるということです。

 エアリアルは、復讐に走る前の「無条件の世界」側の「母」エルノラの鏡像って感じですかね。


 「この世界は怖くないって、教えてやってくれ」(カルド・ナポ博士)


 この、「PROLOGUE」でカルド博士が言葉にしていた、まさに「無条件の世界」的な、「母」的なもの、「レイヤー33」以降はスレッタ経由の影響が強くエアリアルに入ったものですが、それ以前はスレッタの母エルノラ経由の影響を受けていると考えられそうな感じで。

 やはり、エアリアルには復讐に走る前の母エルノラの要素も入ってると考えるのが無難なのかなと。

 今後、時間が経った後の母エルノラも出てくると思いますが、スレッタにとって「無条件の世界」側の母としてと、復讐に利用しようとする「条件付きの世界」側の母としてと、二面性がある人物 として描かれていくのかなと予想。

 その二面性のシーソーゲーム、葛藤自体が本作の物語の動力で、スレッタは母から自分で切り開いていくストーリーとしての前向きな「無条件の世界」を受け取るのか? 復讐の道具に利用されるという誰かが描いたイメージ=呪縛としての「条件付きの世界」を受け取るのか? という物語であると。

(/追記、ここまで。)


 エアリアルからスレッタへの心情は、主題歌「祝福」の歌詞で歌われている説が有力な気がしておりますが。



 これは、「無償の愛」と呼ばれるような、母から子への愛のような、「無条件の世界」の領域に属する、愛というか祝福というか祈りというか、言葉にはできない尊い何かです。

 エアリアルのパイロットがスレッタに交代したところで、「無条件の世界」の何かが一致。この世界にはまだ、「無条件の世界」の領域がある! 「世界が一致した瞬間」を描いているのが凄すぎる。

 ここからは、反撃です。無双です。

 現実の中で「条件付きの世界」に押されていて劣勢だった、時に一笑にふされてしまっていたような、「無条件の世界」の本質が解放される。光を放つ。

 今はまだ「条件付きの世界」の視野しかないグエルには、追いつけない。エアリアルの、魔法のような、「魔女」が「空想」が放つような謎の攻撃。ぶっ飛ばされるグエルと「条件付きの世界」。

 ラスト、スレッタとミオリネ、「魔女と花嫁」。女の子でもいい。「条件」はない。「決闘」で勝ちとったという「条件付きの世界」のフォーマットを表面的には取っているけど、奥深いところにあるスレッタとミオリネの間にある「何か」は、冒頭でスレッタがミオリネを助けようと思った気持ち。母の愛。エアリアルの祈り。そういった類の「無条件の世界」の領域の「何か」で。

 あれだけ「条件付きの世界」に囚われていたミオリネの「世界」が、「無条件の世界」に向けて、少しだけ「呪い」が解け始めている……という第1話の終劇。

 主人公の行動が、一歩前に進んだ勇気が、ヒロインの最初の変化を促した。それはきっと、このわずかな最初の波を起点に世界を変えていく予感を感じさせる……という完璧な物語の始まり。

 あまりに凄すぎる。震えています。何度も観よう。

 個人的には、冒頭時点では「条件付きの世界」に囚われまくってたグエルくんが、成長して「無条件の世界」、「本当の愛」を見つけっちゃったりする展開もありそうかなと思ってしまったりして、今回はぶった斬られちゃったけど、グエルくん応援したくもなっちゃってるぞ!

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→前回:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』前日譚「PROLOGUE」の感想〜技術革新と戦争の混迷の中で人間性の行方に想いを馳せる(ネタバレ注意)
→次回:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2話の感想〜親世代の呪縛でかためられた「閉じた」場所から自由を目指して進むということ(ネタバレ注意)へ
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