ティーンエイジャー前半〜後半の方も結構このサイトを見て下さっているということが最近分かってきましたので、本日は僕がティーンエイジャー後半時代に傾倒した、三田誠広という作家を簡単に紹介いたします。
本日挙げる三田誠広作品タイトルは、ティーンエイジャーの多感な時にこそ読んで欲しい小説ですが、そうは言っても大人が読んでも十分鑑賞に堪える作品ばかりですので、とにもかくにも皆さん是非。
「それにしても、いったい人間は、何のために生きているのだろうか。あくせくと働き、他人と同じような、何の個性もない生活を送り、せいぜい子供たちの将来に望みを託して、死んでいく。いったいそのような人生に、意味があるのだろうか」(『高校時代』)
↑この、1980年刊行の『高校時代』の高校生主人公の独白が、初期三田誠広作品のテーマ、というよりも乗り越えるべき課題を端的に表しています。
かみ砕いて言うと、どうせ死んじゃうのに、生きることに意味なんかあるのか?という疑問が出発点です。
本当は三田誠広は埴谷雄高が大好きな哲学小説家ですので、さらに複雑な哲学的な要素が上のテーマに色々と被さってくるんですが、とりあえず高校で「倫理」の授業をやったかやらないかという程度のティーンエイジャーの方々には、上の太字部分くらいの簡単な視点で読んでみるのが良いと思います。それだけで色々と得るものがあると思います。
実はこの『高校時代』という小説は三田誠広の私小説で、主人公高校生の「生きる」ことへの疑念は、高校時代の三田誠広の疑念そのものに他ならなかったりします。
なんか、レールに乗って流されるようにここまで生きてきたけれど、本当にこのまま生きていていいの?そんな生き方に意味があるの?、と、僕が二十代前半〜後半を念頭に置いて書いてる文章をバリバリ読み砕いてるような、僕が推測するに言語思考能力が高めな当サイト閲覧者の高校生諸君も、そろそろそういうことを考えてしまう年頃じゃないでしょうか。
で、同じように色々考えてしまった若き日の高校時代の三田誠広は、最終的に一度高校生活をドロップアウトして、一作の小説(17歳の処女デビュー作『Mの世界』)を世に送り出してから、再び(小説を書き上げるという行為で得た)心の昇華を胸に、普通のレールに乗って生きることを再開するという経緯をたどっています。
当サイトの高校生閲覧者に「留年して小説を書け」とは決して勧めませんが、その位のことをやってのけてる三田誠広の小説を一冊読んでみる……くらいのことはやってみてもいいんじゃないでしょうか。
で、上述の問い、疑念に完全に三田誠広なりの解答を提示し、構造と実存、宗教、宇宙、個人、人間、現実、といった三田誠広が追い続けた哲学的なテーマをも完全に昇華した超傑作作品に1988年の『デイドリーム・ビリーバー』があるんですが、残念なことにこの作品は完全絶版状態で現在手に入りません(おのれトレヴィル!)。僕も市の図書館の地下書庫に埋もれていたのを発掘してようやく読んだほどですので、捜すのに時間がかかるので、いつかは読んで欲しい本ですが、今すぐ直接勧めるのは躊躇われます(高校生にはちとムズかしいし)。
で、代わりに猛烈に薦めたいのが、1990年の『いちご同盟』という作品です。
『デイドリーム・ビリーバー』で描いた解答を、もう少し低年齢層向けに分かりやすく書いてくれています。
読みやすさはライトノベルだけど、分類するなら明らかに文学、そんな作品です。
というか、そういうの抜きにしてマジ感動の一作です。小学生の頃から本読みだった僕が、15の時に読んで初めて次の日の予定がどうでもよくなって(学校サボって)徹夜して読了した一作です。
以下、少しばかり以前僕が書いた「あらすじ」を……
<あらすじ>
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中学三年の良一は、”どうせみんな死んでしまうんだ”と書き残して自殺した少年に思いを馳せている。良一は同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知り、いつしか淡い恋心を抱くようになるが……ある日、直美は良一に告げる、「あたしと、心中しない?」と。
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どうですか、面白そうでしょ?
上述した『高校時代』とテーマを同じくして、こちらは中学生を主人公に(『デイドリーム・ビリーバー』と同じく)最終的にテーマへの解答が描かれます。その帰結に感動すべし。
というか、アレこれ考えなくて、ただ泣いていい。そんな作品。
多感なティーンエイジャーのウチにこそ読んでおくべき。そんな作品。
このように、『いちご同盟』(中学生)、『高校時代』(高校生)、『デイドリーム・ビリーバー』(大学生)と、主人公が歳を取っていく(同一主人公では無いですが、みんな同じ感じの主人公です)、三田誠広の学生主人公実存青春三連作(僕が勝手に命名)は是非とも万人に布教したいところの僕的傑作作品連です。
特に僕より若い閲覧者の方々、是非。
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いちご同盟
三田 誠広 集英社文庫 定価:¥ 410 Amazonで購入 |
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高校時代
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『デイドリーム・ビリーバー』はユースド商品扱いですらAmazonには無いや。
代わりの大学生主人公のヤツというと、三田誠広的に一番有名な、
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僕って何
三田 誠広 角川文庫 定価:¥ 399 Amazonで購入 |
でしょうか、『デイドリーム・ビリーバー』には及びませんが、学生闘争時代の主人公の実存物語を描いた、普通に面白い本です。芥川賞受賞作なんで、読んでおくと本読みとして話のネタにできるしね。
以上、こんな所で。
よもや自分が文芸の話題にコメントする日が来るとは思わなんだですが。
> 「いちご同盟」
文庫は未読なのですが、某社の中学三年生の国語の教科書に収録されている分は
大体目を通したことがありまして。
多分心中云々がまずかったんだと思うのですが、この教科書収録分は
いくらかマイルドに書き直してあるみたいです。
文庫が未読なので、この書き直しが作品にどういう影響をもたらしたのかは
はかりかねますが、
そこまでしてでもこの作品を中学生に読ませたかった編集サイドのこだわり
みたいなものは感じました。
(話は逸れますが魯迅の「故郷」が載り続けてるのもこのこだわりのひとつだろうなーと。)