「がんばれ四月一日。でもボクは百目鬼の味方だが。」(京極夏彦)

 京極夏彦が推薦文書いてる!

 この推薦文を見た瞬間電撃的に悟りました。京極夏彦の『京極堂』シリーズに似た構造を持った漫画として、最近ぼくはWJの『未確認少年ゲドー』を挙げていましたが、考えてみたらそれ以上にこの『XXXHOLiC』の方が遥かに『京極堂』的です。
 ある誤認された怪奇に対して四月一日君や関口君を通してアプローチして読者視点で体験させつつ、一つのテーマを掘り下げる。そして最後は主人公にして解体役の、侑子さん、中禅寺秋彦が出てきてそれらの誤認・怪奇を解体、浄化してやるという基本的な話の枠組みが同じです。この前の『FRaU』の記事によるとCLAMPの大川さん(主に話を考えてる人)はヘビーな読書家ということだったので、当然『京極堂』を読んでるかも。

 『京極堂』と『XXXHOLiC』とで違うのは、『京極堂』はかなり大人な読者を想定しているためにクライマックスの「解体」部分に硬質な衒学ラッシュが来るのに対して、もう少し低年齢の読者層をも想定してる『XXXHOLiC』の方は解説の難解さが薄い分、漫画の特性を生かしてビジュアルで「解体された感」を爽快に演出してる所でしょうか。言葉と文字による表現、絵も加えた表現と、少しだけ異なりますが、どちらも解体部分の描写は芸術的に美しいです。特に低年齢層の読者には『XXXHOLiC』の方の、一つの概念の解体、昇華を絵で表現しているというCLAMPの神業をストレートに楽しんでもらいたい所。

 一つのエピソードに一つの概念・テーマを設定してそれを徹底的に煮詰め、最後に解体する物語としては、少年誌の枠組みに捕らわれていない分、『未確認少年ゲドー』よりも『XXXHOLiC』の方に軍配が上がる感じです(『未確認少年ゲドー』も少年誌のWJの枠組みの中ではテーマ性に関してはトップレベルなんですが、それでも)。より、『XXXHOLiC』は大人向けのベクトルに突き進んでる感じで、ゲドーよりも媒体は違いますが奈須きのこ『空の境界』に近い感じです。『空の境界』も一つのエピソードごとに、「俯瞰」「痛覚」「殺人」「矛盾」「言語」といった概念をテーマに設定して、恐ろしいほどに煮詰めて昇華しているんですが、『XXXHOLiC』も「自分への誠意」「覚悟」「過信」「言葉」といった概念&テーマを一エピソードごとに設定して徹底的に煮詰めています(僕的には「言葉」の概念をテーマに煮詰めて昇華しきった4巻に収録されている姉妹の話が出色で超お薦め)。
 なんで話は決まりましたね、同じ概念・テーマ煮詰め系の創作作品として、『未確認少年ゲドー』が好きな人は、次のステップとして是非『XXXHOLiC』を、『空の境界』や『京極堂』が好きな人は、もう少しライトにビジュアルで気軽なヤツも読みたいなって感じで、是非『XXXHOLiC』を。超絶お薦め漫画です。僕が個人的に毎年つけてるその年の創作作品ベスト5というのがあるんですが、去年は『XXXHOLiC』を漫画部門の2位にしました。そんで、冗長と思われようとも、今年も『XXXHOLiC』は入れちゃう感じ。それくらい好き。

◇習熟度別お薦め読書チャート

 『未確認少年ゲドー』(初級用)→『XXXHOLiC』(中級〜上級用)→『空の境界』(上級用)→『京極堂』シリーズ(大人向け)


未確認少年ゲドー 1 (1)
岡野 剛
ジャンプコミックス
定価:¥ 410
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XXXHOLiC 1 (1)
CLAMP
ヤンマガコミックス
定価:¥ 560
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空の境界 上
奈須 きのこ
講談社ノベルズ
定価:¥ 1155
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姑獲鳥(うぶめ)の夏
京極 夏彦
講談社文庫
定価:¥ 840
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 で、以下ここからは既にどっぷり『XXXHOLiC』を読んでる方用の、ネタバレ5巻感想です。

◇紫陽花と死体の話

 「人間は尊きものを助けないのに 何故、尊きものが人間を助けなければいけないの」(雨童女)

 ここにも繰り返し『XXXHOLiC』で繰り返し描き続けた「1=1」、「対価の思想」があります。尊きものはこちらから何もしなくても無償で自分を助けてくれるとあなたは奢っていないか?否、全て世界は「1=1」の論理で回っているのだとしたら、尊きものだって対価がなければ何もしてやる義理はない。

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 脱線しますが、僕はこの頃、無償で神様に助けて貰おうと祈りを捧げている人達に疑問を感じています。神様的も、無償であなたを助ける義理はないだろうみたいな。なんで、僕は最近神様に祈らざるを得ない時は、自分もこれをやるから、これくらいは助けてくれまいかと、対価を設定しながらお祈りするようにしています。

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 閑話休題。

◇抑制心の話

 『XXXHOLiC』の十八番の概念煮詰め系の話がきました。ネガティブ要員のゲストキャラと四月一日との交流を通して、一つのテーマを描くあのパターンの話です。今回の概念は「抑制心」。何も言わず、

 「そう。「抑制心」を 何かを我慢したり堪えたりするココロ 他者と関わるならとても、とても大切なキモチ 例えば、愛よりもね 誰かを愛しむココロも それを抑える術を知らなければ、只の暴力になるわ」

 という侑子さんの解体に酔いしれるべし。

 ただ、今回、意図的に今までネガティブ描写されてきた人達につけ込んでる「敵」の存在が明らかになりましたね。一エピソード完結型でまったり終わっていく話かと思っていたので意外でした。どうやらクライマックスに大きい話があるようです。もしかして、クライマックスは『ツバサ』と交差するのだろうか?今回の「敵」と『ツバサ』の「敵」が同じとか……ちょっと、コレは楽しみになってきました。バトル漫画の『ツバサ』の軸に、侑子さんが参戦するような燃え展開もあり得るワケだ。

◇四月一日と座敷童女の恋物語

 今ではすっかり人間と交わらなくなってしまった「怪奇」と、人間との再接触、相互理解物語の側面もあるんですよね、『XXXHOLiC』には。雨童女は上述引用の台詞のように、人間を諦めてる側面があるんだけど、そこへの救いとして、この四月一日と座敷童女の恋物語があります。幼い頃から怪奇を見て育った四月一日は、根本的な部分で怪奇(座敷童女含む)を拒否しない、ときにエンパシーすら感じて真摯に接する(ちゃんと「1=1」の対価としてホワイトデーのお返しを届ける、こんな辺りにも身近で分かりやすいバレンタイン−ホワイトデーの対価交換なんて素材を使ってテーマを絡めてるのが本当ニクい) 。そこに両者が再び混じり合える希望がある。

 実は、浄と不浄の接触、相互理解物語でもあります。清浄な雨童女が「アテられる」と表現してることから、実は伏線通りひまわりちゃんは何かしら「不浄」な特性の娘なんですよね(あやかしに近い属性?)、清浄の世界にいる座敷童女少女か、不浄の特性をもつひまわりちゃんか、四月一日の恋物語は、こういう側面も持ってます。

 そして、百目鬼はさんざん描写されてきたように、「清浄」の特性を持つ者です。不浄のひまわりと清浄の百目鬼、そして中間者、相互理解者としての四月一日、この3人が一緒にいる光景が希望であり、全てを知ってる侑子さんはそれを遠目に眺めている。そんな『XXXHOLiC』の風景が、僕は好きです。


XXXHOLiC 5 (5)
CLAMP
ヤンマガコミックス
定価:¥ 560
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